のりこと霧の部屋5
「メッヒ!クワク!いったいどこ!?」
のりこは霧のなかを手探るが、わからない。
(声も聞こえないだなんて、いったいどういうこと?)
ただの旅館の一室……そのせまいはずの空間に合わない距離をうろつくと、しだいに霧がはれて……
「いったい、ここ……どこ?」
そこはまるっきり
「街のなか?」
いつのまにか旅館から外にまよい出てしまったのか、のりこはうすぐらい道路にひとり立っていた。
(……けど、そうだとしてもなんだかヘンだ)
外の街に出たとしても、いま少女が立っている場所は旅館の周辺と雰囲気がびみょうにちがう。
地面は舗装されていないし電柱は木で出来ている。木製の家々にかけられてあるのはホウロウの看板に裸の白熱電球……まるでむかし……社会の教科書に出てくる昭和の日本のような街なみだ。
だいたい、海の近くでもないこの街で霧がたちこめるなんてこと自体、めったにないはずだ。
のりこのおろしたての袢纏はもうかなりぐっしょりしてしまった。
(そんなことより、いったいどこにメッヒとクワクは行ったのだろう?)
のりこは二人を探すためおそるおそる歩きはじめた。
(うわっ。土管が置いてある空地だ。あんなの「ドラえもん」でしか見たことないよ)
雑草が生いしげる空き地に置かれた管はアニメで見るより大きく、金具部品がサビきって危険なものに見えた。
よく見ると、そのかげでなにかがゴソゴソうごめいている。
(……犬?)
土管に頭を入れて、こちらにおしりを向けてシッポをふっている小犬がいた。
そのかわいらしいおしりに、のりこはふと、このあいだ見かけた黒いプードル犬を思いだした。
(あの子、いまごろいったいどうしているだろう?)
まさかあの犬がこんなところにいるはずがないと思いつつ、いきもの好きののりこがそのそばに近づくと、小犬はにわかに土管から顔を出し、ふりかえった。
「――なんだよ」
なんと!
その小犬の顔は、かわいらしいおしりに似つかわしくもない、無精ひげを生やした人間の中年男性のものだった。




