のりことまるっこい客4
そのことばに、メッヒは
「彼?……ああ、今年は『あれ』をする年ですか……うん?カーニバルに参加したのなら彼とも顔を合わせたでしょうに、その場ですまさなかったんですか?」
「あの祭りの熱狂のなかじゃ、落ちついて出来んさ。場所を変えて、この旅館で勝負しようと言い出したのは彼のほうだ」
「そうですか……わざわざ地球の裏側まで」
そう言いながら、メッヒはミゲルが手にしたトランクをうさんげにすがめる。
そのなかでなにかがモコモコ動いているのには、のりこも気づいていた。
「きみがいるから、自分に有利になると思ったのかな?」
客のことばに、メッヒは肩をすくめ
「それはないでしょう。彼と私は親しい仲に思われがちですが、実際はそんなこともないですよ。もともとの持ち場がちがいます。それに、私はすべてのお客さまに平等に接します」
宿泊業者としてのプライドあることばを吐いた。
ミゲルは苦笑いで
「『平等』なんてことばをきみが口にするとは、ほんとうに世も末かもね」
言うと、くわえて
「……それよりあの旅館の表に立っている子に、なにか食べさせてやっておくれでないか?」
求めた。
客の願いに、メッヒは
「よろしいのですか?どうも、あなたを『狙っている』様子でしたが……」
のりこはそんなものが表にいるなど気づいていなかったが、有能な番頭はちゃんと把握していた。
「ああ。最初はわたしにうらみを持つ南米の悪鬼の類かと思ったんだけどね」
客のことばに
「……あなた、また余計なことをしてきたのですか?」
顔をしかめる。
「なに。カーニバルに出たあとこっちに向かう道すがら、ウチの純真な宗徒を害さんとする外道に出くわしたのでね。追っぱらったら、その親玉の不興を買ったらしい。わたしを追ってくるそうだ」
「あなたがたは、すぐそうやって自分たちの正義をふりかざす。めんどうな方々です」
あきれ顔の番頭に
「きみらにミッションの偉大さはわからんさ……それで、あの子もその一味かと思ったんだが、どうもちがうようだ。なんらかの執着は感じるが、邪気がない……もしかしたら『彼』の方が目当てかな?なにせ、彼はパッと見のすがただけはわたしに似ているから」
「そうですね。まあ、お客さまのリクエストには応じないといけませんですからね……」
メッヒは客の願いどおり外に行った。
しばらくしてつれてきたのは、丸っこくて小さな男の子だ。
ポンチョ・コートに山高帽をかぶった、見るからに南米……それも山岳地方の出らしい装いをしている。不安からか、つぶらで愛らしい眼をきょときょとさせている。




