のりこと大工たち7
ひとり残された少女あるじは、こまって
「すいません。こういうことなのでお引取りを……」
頭を下げるが、トーク帽は取り合わず
「そうはいかないわ。あたしたちはなんとしてもあなたを保護したい。かといって、無理にさらって引き連れたりする気は無いわよ。先ほどの悪魔が帰るまで待って、それからゆっくり話をしましょう」
メッヒが悪魔だってちゃんとわかったんだ……
トーク帽の彼女が人間だということは、最初からのりこも気づいていたが、メッヒの本性を見ぬくだなんて、番頭の言うとおり、彼女はなんらかの術師……ただの人間ではないらしい。
(連れの片目がなんなのかは、のりこにもよくわからなかった。どうみてもふつうの人間ではなさそうだけど)
こないだ来たエクソシストみたいなものだろうか?ああいう人たちはふつうのアチラモノ宿泊客にとっては迷惑でしかないので、綾石旅館では利用を断っている。
なんでもアチラモノを狩るのを仕事にしているハンターと呼ばれる人間もいるらしくて、しつこく泊めてくれと言うのを、番頭が力ずくで追い返すこともあるらしい。
とにかく妙に自信たっぷりの平然な顔をして立っている女性にかけることばもなく、のりこがこまっていると
「——あら、どうなさいまして?職人さん」
玄関前を掃いていた、この世ならぬ美を持つ少女女中……実は精巧なからくり人形であるアンジェリカが気づいて問うたのは、庭からまわってきた巨体の大工たちだ。
「番頭はどごだ?」
のばし放題で顔も見えないおどろ髪の中から声を出す。
「番頭なら、業者さんを探しに出ました」
愛想よく接するのりこに対して、暗く沈んだ声で
「……そうけ。番頭にも言っだが、あのちっこいのは、おらたちにちゃんとお飯ぐれるっつうから、黙っで働いでだんだ。
なのに、ちっども給料くれね、飯もくれね、おかげでおらだぢゃすっかり饑いだ。おらだぢも、あのちっこいニッセにだまされだ!」
番頭が言っていたとおり、この職人たちも業者にだまされていたらしい。ひどい話だ。
「おらたちゃ、腹減っだ!!」
気の毒に思ったのりこは
「じゃあ、今ちょっと厨房に言ってなにか用意させます……アンジー、ちょっとお美和さんにたのんできて」
「かしこまりましたわ」
廊下に消えた女中のすがたを見送ると、巨人たちは
「ぐれるって、なんだ?」
「かんたんなものだと思いますけど。おにぎりとかパンとか」
「……おらたち、そんなものいらね」
腹をすかせた職人たちは、どんよりとした口調で言うと
「ふるさとから遠く離れた、こんな醤油くせぇ国にやってきたあげく、だまされてこきつかわれるだなんて、もう腹は減るわ立つわ、しかたねぇ。もうおらたちゃ、好きなもの取っで食うど!」
目が血走っている。




