のりこと大工たち6
そう言うと、乱暴に自分の手を引っぱる女性に、のりこはびっくりして声も出ない。
代わりに横にいるクワクが
「おのれ、さては貴様ら子盗か!?白昼堂々あつかましきやつ!われらがあるじを、うぬらがようなものにわたすものか!」
あるじを引っぱり返す。
トーク帽は
「子盗?失礼な言いかたね。化け物のくせに……とは言え、まあそうね。乱暴なことはやめましょう。こんな魔窟であっても、今まであなたが過ごしてきたからには何者か保護者役がいるのでしょう?そのものと話をつけましょう」
手をゆるめ、話し合いによる対応に変えたらしい。
保護者って……一応あいつだよね?と少女が思っていると、ちょうど出てきた。
「メッ……」
声をかけようとしたあるじに対して、奥からパタパタ出てきた番頭は、ちょっとたのしそうに
「あるじ!あの業者は、やはり悪徳ですな!いま職人たちに確認すると、こんなシロアリなど見ていないと言うではありませんか!たしかに修復自体はむずかしいが、部分的な手直しで十分行けるそうです!
それにあの業者!どうも職人たちへの賃金も滞っているようで、どうやら我々が先払いしている代金をすべて自分のふところに納める気らしいです!私の上前をはねようとは、なかなかやるではないですか!」
ほんとうにたのしそうだ。
悪魔がわらっているということは、おそろしいということだ。
それにしてもあの業者、よりによってウチの番頭をだまそうとは、バカなんじゃないか?
「こうなっては、さっそく今の業者をつかまえ問い詰めねば!後のことはお願いしますよ……クワク、私についておいで!」
たのしいイベントに行くかのごとく、急いで旅館を出ようとする番頭に、のりこはあわてて
「ちょ、ちょっと待ってよ。今こちらのお客さまがあなたに話があると……」
あるじのことばに、番頭はふたりづれをちらりとすがめたが、そのあとは冷淡に
「——申し訳ないですが、うちの旅館ではたとえサカイモノ……なんらかの術師のたぐいであっても『人間』のお客さまのご利用はご遠慮いただいております。どうぞご寛恕をたまわりましてお引取りのほどを……クワク、はやく来い!」
「——は、はぁっ!ただいま参りまする」
言いすてると、細かいことも聞かず男衆蜘蛛を乱暴に引き連れ出かけてしまった。




