のりこと大工たち5
「……なんだかたよりない感じだったけど、ほんとにだいじょうぶ?」
のりこの問いに、番頭は妙にニタリとして
「……そうですね、ちょっとくさいですね。私は職人たちと話をしてきます」
なんだか、楽しそうに奥にもどった。
「旅館の修理って、たいへんなのね」
「左様。特に新規の業者を入れる場合は、むずかしいものでござるよ」
のりことクワクが話していると、おとないがあった。
「たのもう!!」
——タノモウ?なにその言いぐさ?それじゃあまるっきり……
のりこが口をひらく前に
「うぬっ!さては道場破りか!?当館の看板は、それがしがわたさんぞ!」
時代劇好きの従業蜘蛛が反応しちゃった。ウチは道場じゃなくて、ただの旅館だってば。
そんな時代はずれなことばを発して旅館に入ってきたのは、ふたりづれの客だった。
先に立つのは、30代ぐらいだろうか、トーク帽に千鳥格子のコートをまとった一見エレガントそうな女性だった。
その後ろにしたがって立つものは(この旅館ではともかく、ふつうの世界では)ちょっと異様で、大きな体に動物の毛皮をまとったいわゆる山男スタイル、左目がつぶれているがのこった右目をギロギロさせている。
どうにも、かわった組み合わせだ。
トーク帽はクワクのことばに
「あら……だれも、こんないかがわしい旅館の看板などいらないわよ」
手にしたケリー・バッグをゆらしながら、吐きすてるように言った。
(——いかがわしい、ですって!?)
そんなセリフ、番頭が聞いたら目をいからしているところだ。
のりこだって、大事に思っている自分の家をそんなふうに言われて気は悪いが、そこは客商売、精一杯愛想よく
「いらっしゃいませ!……なにかご用でしょうか?」
頭を下げた。
トーク帽は、そんな半纏すがたの少女を値ふみするようにじろじろ睨めると
「あなたはなに?」
問いを無視してたずねてきた。
「——あたしは、この旅館のあるじです」
すでに番頭に負けないぐらい旅館にほこりを持っている少女あるじは、多少胸をはって言った。
「あるじ?……ということは、あなたがユリコの娘?」
女のするどい声に
「そうですけど……」
急に母の名前が出てきて戸惑う少女に対して、トーク帽は
「なら話が早いわね――さああなた、あたしたちといっしょにおいでなさいな。このような伏魔殿に、あなたのような子がいつまでも居続ける必要はないわよ」




