のりこと魔送りの夜16
つづけて
「――それと、ホラアナライオンの件についてはご迷惑をかけ申しわけありませんでした。診療所にいらしていただいたのに、治療ができませんでした。
なにせ先代の知識はある時期からアップデートされておりませんので、特に海外のアチラモノには対処できない場合が多いのです。当代の先生ならば、問題なく治療なさったのですが……」
くやしげな表情で頭を下げるスタッフに、旅館のあるじは手をふって
「ううん。あたしたちはなにもしてないから。それはリリィさんが治してくれたから」
そのことばに、ほっそりと青白い診療所スタッフは
「――ええ。彼女に対してその返礼もすることができて良かったですわ」
背筋をのばし天をあおいだ。
「……あの。そのとうだいの先生……お医者さんって、まだ見つかっていないって聞きました。だいじょうぶなんですか?」
少女がおずおずと問うと、ヨシノはまっすぐ顔を見かえして
「先生は、もどってまいります」
静かな、しかし強いことばで返した。
「……それまでは先代の力を借りながら、あたしどもでなんとかやっていかねばなりません」
「たいへんじゃないんですか?」
その医者が、この街の中ではとても重要な役割をはたしていると聞いたから、ついついたずねてしまう。
「たいへんはたいへんですが……まあ先代がおりますので、おおよその患者には対処できます。それに街や世界全体に関わるような問題が発生した場合でも、さいわいウチには優秀な『助手』がおりますのでね。いざとなれば、彼がなんとかしてくれるでしょう」
よく知らないけど、世界の問題に対処するって、すげぇなその助手……なにもの?スーパー・エージェント?
「……では、あたくしはこれで。なにぶん診療所を空にしたままですのでね」
ていねいに頭を下げ直すと、ほっそりとしたその女は闇に消えていった。
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