のりこと魔送りの夜12
のりこらがなす術もなく途方に暮れていると
「――そう。これは医者の領分だ」
四辻の向こうがわの道……暗がりから、人影がひとつ近づいてきた。
そのものは、長い金髪をなびかせて薄闇にぼんやり輝いているように見える……
白衣すがたの、わかい女性だった。
女性はリリィ……妖気の塊に向かうと、気安いようすで
「――ずいぶんとこじらせたな、女王。受診に来るのが遅かったではないか?早く来るように言ったであろうに」
それに対して、妖気の塊のなかから声がした。
『――ああ、医者。来てくれたのね。……そう言われても、後始末がけっこうかかったのよ。それらを終えてやっとこの街に来たのに、あなた、そしてあなたの弟子までいないと言うじゃない?あわてたわ。だって、あたしを診てくれるのは、世界であなただけだもの』
のんきなふう……しかし苦しげなリリィのものだ。
金髪女性は
「診るとて、先に言うたとおり。もはや、わしがそなたに出来ることはこれだけじゃ」
そう言って頭上にかざしたたおやかな掌にあらわれうかんだのは、光り輝く大きな……
「矢?」
まるで槍のように大きく長い……しかしちゃんと矢羽根と矢尻のある光の矢だった。
「――おう、あれは」
番頭が、思わずうめいた。
「なんと古風な。矢をつかう医者ですか?」
のりこのけげん顔に、説明するように
「今は、すっかり見なくなりましたがね。本来、医者とは呪術的な意味で『矢』をつかうものです。だから、あなたがたの使う『医(醫)』の字のなかにも『矢』がのこっているでしょう」
へえ、そうなの?そんなの知らなかった……なんて、豆知識に感心している場合じゃない。いったい、矢なんか持ち出してどうするの?
「――よいか、女王」
矢をかかげた女性の問いに
『いいわよ。ちゃんと「送って」ちょうだい』
「そんな!おねえさま!」
なにかに気づいた芽依がさけびきる前に、女性が手をふりおろすと、光の矢はまっすぐ妖気の塊……リリィに突き刺さった。
『――――――――!!』
断末魔、というのだろうか?声にならない声が、あたりに響く。




