のりこと魔送りの夜11
メッヒは抱きかかえていたのりこと芽依を道路に下した。
目の前には桃色だか青色だかがまじりあった、どんみりとした妖気のかたまりがある。
リリィだ。
交差点……四辻のまんなかで蠢いていた。
「――古来より、悪魔・妖魔の類は辻を好むとされています。実際は、ただ人間のほうがこのような四つ辻で私どもへの祭礼・召喚儀式をよく行ったので、それに合わせて現れただけなんですが……まあ、リリィもそれに慣れていたというところでしょうか。
それにこの辻では最近なにかあったようですね。いろいろなアチラモノの気配がまじりあっている」
そんな番頭の解説は今、少女たちにはどうでもよかった。
「おねえさま……」
妖気に近づこうとする友人に、のりこは
「危ないよ、芽依ちゃん」
袖をつかむが、少女は首をふり
「だいじょうぶ……おねえさまはあれでも自分をおさえている。ただ、もうさすがにあのままではいられないよね……」
直接触れはしないが、なでるように塊をいたわる。
「?」
わけのわからない小学生あるじのわきで、番頭は感心したように首肯し
「よくおわかりですね、芽依さま。たしかにリリィはもう限界でしょう。いかに始原の女性といっても、彼女は現身を持ったまま、この世に長くいすぎました」
「どういうこと?」
あるじの問いに、番頭は、おもむろに解説をはじめた。
「そもそもリリィ……もといリリスは、ユダヤ系の俗説において、人類最初の女性とされている存在です。
遠い昔、神が用意した楽園で、今の人類のもととなった最初の男性と夫婦でした。しかし、今も昔も夫婦のあいだにいざこざが起こるのは変りません。リリィと男はうまくいかなくなって別れました。
男……アダムはその後、自分のあばら骨から作った女性イブと結婚して楽園を出て、こどもをつくりました。それが今の人類です。
一方、リリィのほうはその後、夜の女王、または始原の夢魔として、さまざまな悪霊の類を生み出しました。
こないだ観た日本のアニメでは、なぜだか人類のほうがリリン……リリスのこどもということになっていましたがね。ふつう、人類とはアダムとイブのこどもです」
続けて
「楽園を出たとき、アダムの血族は現世での限りある生を選択しました。
しかし、リリスはそれを拒否しました。永遠の生です。以来、彼女はひとり死ぬこともなく長い長い現世暮らしを送り続けてきました。
ですが、生身の肉体を持ったままあり続けるなど、この物質界ではやはり不自然です。ここにきて、彼女の肉体と精神は長年の濁りの蓄積に耐えきれなくなったのです」
「どうなるの?」
「彼女は死ねないのですから濁りの暴走はひどくなり続けるでしょう。このままだと、この街ごと飲みこまれます」
そのとき
「おねえさま!」
芽依の接触もむなしく、妖気が大きく膨れ上がる。リリィがまた自分を抑えきれなくなったのだ。
「そんな!いったいどうしたら?」
あるじのさけびに、番頭は冷ややかに
「わかりません。私は医者ではないのでね」
息を吐いた。




