のりこと魔送りの夜4
その視線の先にいるのは……
「クワク!それにユコバック!よかった、だいじょうぶだったの?」
旅館から出てきた男性従業員たちだ。
しかし、ふたりともあるじの声に反応しない。
「だいじょうぶ……とは言えなさそうですね」
番頭の言うとおり、陽気なはずの彼らが、黙りこくって険悪な目つきを向けている。
「う~む、どうやらリリィの夢幻に呑みこまれてしまったようですね。正気を失ったらしい。だらしない話です」
「そんな!どうするの?」
あわてる少女あるじに
「――やむをえません。私が対処しますか」
そう言って肩をまわし始めたメッヒに
「……対処て、いったいどうなさるおつもりでっか?番頭はん」
お美和が、するどく問う。
「えっ?そりゃああなっては元に戻すのも面倒ですから、いったんふたりとも破壊……」
そのことばに、女中は目くじら立てて
「あきまへん!そんな簡単に壊したりしては!あんさんみたいな年功のある悪魔と違て、特にまだわかいクワクなんかいったん壊したら、そないうまいこと再生でけへんのやから!短気を起こされては困ります!」
しかった。
(この悪魔、かんたんに同僚をこわそうとしたのか……おそろしいやつ)
のりこは、あきれかえって声も出ない。
正論でしかられ憮然とした番頭に、お美和は
「もおっ!……あのふたりは、あたしとアンジェリカでおさえときます。その間に、あるじらはあのお客さま(リリィ)をどうにかしてください」
「――よいのですか?あれでも、彼らは強力ですよ。あなたがたふたりだけでは……」
メッヒのことばに
「なに言うてまんの!?仲間を救うんは当然だす!」
「そうですわ!あたくしども、そんな不人情ではありませんでしてよ、番頭さん」
女性陣の剣幕に、番頭はさからわず
「……そうですか。では、この場はまかせますかね?あるじ」
「うん――でも、ほんとにふたりでだいじょうぶ?」
心配げな少女あるじに対して
「まかしておくれやす。女は度胸ですわ。なあアンジー」
「はい!ですわ」
たよりがいのある女中たちは胸をはった。
「では、おねがいします。……まったく、うちの従業員は私をのぞくと圧倒的に男衆より女子衆の方が優秀ですね」
番頭はお美和たちにあとを任すと、のりこと芽依(の幽体)を抱きかかえて夢魔の女王を追った。




