のりこと魔送りの夜3
「医者?それって、いま行方不明だって人?」
「いや、今の医者ではなくその前任……先代の『アチラの医者』だ。今のやつとちがって、きびしい方だった……くわしいところはおれも知らんが、前回はその医者がひとりであの妖女を追いはらった」
「でも、今はそのお医者さんがいないんでしょう?いったいどうするの?」
少女の問いに
「さてね。わからん」
団長はあっさり言った。
「われわれはただ自分ができることをするだけだ。そうしているとなんとかなる……そう信じて、この街の住人は、この危ない土地で生きてきた。
あなたも町衆の一員として、それは知っておいた方がいい……じゃあお嬢ちゃん、生き残ることができたならば、また会おう」
ガタイの良いおじさんは、手をふると去っていった。
「どうなさいます、あるじ?」
番頭の問いに、のりこは
「どうするって……やっぱりあたしたちがリリィさまを追いかけた方がいいんじゃない?お客さまなんだし。なんとかしないと」
「なんとかと言ったところで、出来ることは少ないですがね」
いつになく乗り気が薄い番頭とやりとりしていると
「――のりこちゃん。おねえさまを追いかけるのなら、あたしもつれていって」
話しかけてきたのは
「芽依ちゃん」
うっすらとした幽体のままでいる友人だった。
そんなことを言うなんて、まだリリィの魅了がおよんでいるのか。ちゃんともどさないと……と思うのりこに対して、メッヒが
「あるじ。芽依さまはすでにリリィの魅惑が解けておられます。いまはちゃんと本体とつながった思念体として、この場にとどまっておられるのです」
えっ、そうなの?じゃあ、まともなんだ。そういえば服装もいつのまにか元にもどっている。でも、そんな状態で体の外に居続けたりできるの?
「ふつうのものにはできません。どうも、あなたのご友人は巫女体質でらっしゃいますね」
番頭と話すのりこに対して、芽依はぶれることなく
「いまのおねえさまには、あたしが必要」
きっぱりと断定した。
リリィに魅惑されていたときの芽依にも戸惑ったが、この毅然とした態度も、これはこれでふだんのおとなしい彼女とちがって、なんだか気圧される。まるで何かがのりうつっているようで、のりことしては断りにくかった。
「――じゃあ、いっしょに行こう。メッヒたのむよ」
あるじのことばに
「やれやれ、しかたありませんか……」
番頭はしぶしぶ応じたが、そのあと旅館を見やると
「……と、その前にどうやら対処しなければならない問題がありそうですね」
しぶい表情になった。




