のりこと魔送りの夜2
いつのまにかやってきて声をかけたのは、河野製造の社長にして、かむの協議会メンバーであるヨウイチロウだった。
今回は、そのうしろに同じ半纏すがたの若い衆を引き連れている。息子のすがたもあった。
メッヒは、おおぎょうに手をひろげ
「やあ。これは偉大なるツノジカさまを奉る、とうとい団員のみなさま」
露骨に媚びた態度でむかえいれる。
「なにがみなさまだ、この悪魔。ちゃんと抑えとくんじゃなかったのか?」
団長の冷ややか声にも
「はあ。やはりこの民主主義国家において、お客さまのご自由を束縛するのはむずかしゅうございます」
しらじらしくも、そらぶく。
「ふんっ……まあいい。あの女を街に入ってすぐに暴れさせなかっただけマシだ。おかげで、少しはコチラにも備えを講じる余裕ができた」
団長は息をつくと
「――あのバビロニアの男幽霊たちには、地蔵堂まわりのガイコツムシャを当たらせる。幽霊の対処は幽霊にまかせた方がいいからな。
呪宝寺……禍王や陽城の家も人員を出すそうだ。いまは離れたとはいえ、あれらも元はうちと同じかむのの七名家の筋だからな。
それと夢魔に感応して下から湧き出た妖鼠や妖鼬には、猫が対応してくれる」
「ああ。この街の『猫の王』も、代が替わったんでしたね」
「うむ。暴君だった先代とちがって、今の王は協力的だから助かる……そのかわり兵糧は要求された。缶詰のキャット・フードがお好みらしいから、それはそちらに任すぞ」
番頭は、顔をしかめ
「なぜ旅館が?……とは言いにくいですねぇ。リリィをおさえきれなかったのは事実ですから。しかたありません、猫たちのエサ代は当旅館が持ちましょう。――で、あなたがたはどうされるんですか?」
その問いに、ほこり高きツノジカ団の団長はニイッと口を笑み曲げ
「そりゃ、われわれの相手はシュディムだろう。前回、うちの親父が受け持ったのもあいつらだ」
そのことばに、背後の若い衆が緊張を高める。
「――まったく。おれもそろそろ後の世代に仕事をゆずって、ツノジカさまのお世話と(ボディ)ビルディングに専念する気だったんだが、しかたない。……おい、ヨウスケ。あいつらの位置はちゃんと追えてるだろうな?」
「はい、とうさ……いや団長。式神でフォローしてます」
携帯端末の画面を見ながら、息子が答える。
「そうか。じゃあ行くぞ」
去ろうとする一団に、のりこが
「おじさん、あのリリィさんのほうは?どうするの?」
問いかけると
「うん?あの夢魔の本体はわたしたちにはどうにもならないな。前回の襲撃のとき、あの女王と直接対峙したのは、医者だ」




