のりこと妖女なお客とお友だち9
「あら、のりこちゃん、いらっしゃい。ごいっしょにお茶などいかが?ねえ、おねえさま、よろしいでしょう?」
「好きにおし」
リリィと芽依は、オリエンタルな絨毯を敷いた上で、銀食器にマフィンやプチ・ケーキをのせてアフタヌーン・ティーを楽しんでいた。侍女ふたりが給仕をしている。
芽依はリリィの買ってきた服を着て、まるで不思議の国のアリスのようないで立ちだ。
「今、ちょうどおねえさまが北極にいらしたときの話をうかがっていたの。おねえさまったら、ホッキョクグマの首をへしおって並べるのがお得意なんですって。すごいと思わない?」
ふだんの心優しき芽依ならばおぞけづく話を、うれしそうに語る。
やはり通常の精神状態ではないのだ。というよりメッヒによると、今この場にいる芽依ちゃんはあくまで生霊……幽体の類であり、肉体はおうちで昏々とした眠りについた状態にある。
のりこは、たまらずリリィに訴えた。
「お客さま。どうか芽依ちゃんを返してください。あたしの大切なお友だちなの」
必死の嘆願に、しかし古代からの妖女は
「あ~ら、あたしのもとに来るのを望んだのはこの子よ。あたしは、この旅館に来あぐねていた芽依ちゃんを見つけて招き入れただけ。お友だちを招きしぶる子なんかより、いいんですって」
いやみたっぷりに返す。
お泊り会以降、旅館をふたたび訪れたがっていた芽依にお茶をにごしていたのを突かれて、のりこはこたえた。
しかし
(しかたないじゃない、番頭がいい顔しないんだから)
旅館がらみで起こる都合の悪いことはすべて、いま自分の後ろに控える悪魔のせいにすることにしている少女あるじは、とにかく気持ちを立ち直し
「まねくぐらい、いくらでもできるもの!……芽依ちゃん、その人の世話にならずとも大丈夫よ。お部屋ならちゃんと用意させるから!」
背中に刺さる番頭の白い眼を無視して、さけんだ。
しかし、女王は悠然と
「部屋だけあったって、しょうがないわよねぇ。あたしみたいな魅力的なものがいっしょにいるから面白いんじゃない。――なんなら、今からいっしょに世界へ旅に出ましょうか?」
そのことばに、芽依は目を輝かす。
「わぁ、ステキ!あたし、まだ海外旅行ってしたことないの!」
そんな!海外に出られては、ますます芽依の生霊を体にもどすのがむずかしくなってしまう。
「ダメ!海外になんて行けるはずないでしょう!」
「この子が望んでるのよ。なにがわるいことかしら?」
リリィの冷ややかなことばに答えたのは、それまで静かにしていた番頭だった。
「――この国の法律では、親の許しもなくかってにこどもを連れ去ることはゆるされておりません」
その事務的なことばに、妖女はまなじりをさいて
「『法』など!このあたしが、そんな人間がかってにつくったものにしたがうとお思い!?」
刃のごとき妖気にのせて、ことばをはなつ。
番頭はしかし、それを受け流すと
「……かつてならばそうでしょうが、今のあなたさまならば存外、考慮してくださるかと思いましてね」
あえて鷹揚に返す。




