のりこと妖女なお客とお友だち2
暗くなってきたようだし、早く中に入らさせてもらおう……って
「あれ?いまはいったい何時なんだろう?」
とまどっていると、いつのまにか旅館の前の敷石に、似つかわしくもない豪奢な衣装をまとった女性が、長い裳裾を引いて立っていた。
こんなささやかな地方都市の街なかで、違和感しかないすがただ。
あごを上げて、上弦の白い月を見ている。
その横顔の美しさといったら!モデルや映画女優みたいというのとはちょっとちがって……そう、まるで人間をこえたものだった。
単なる外見としては、自分の母親より若いようにも見えるが、その月をあおぐ瞳の深さはそれよりぐんと年かさ……祖母などと比べてもはるかに長い年月をのぞいてきたものに思える。自分には想像もつかない経験を重ねてきたのだろう。
妖婦……ということばこそは知らねども、芽依にもその女がかもし出す気配が、けっして徒人のそれでないことはわかった。
そんなただならぬものと
目が合った。
「――あら、おじょうちゃん?こんなところであたしと会うなんて、めずらしい子ね。なにをしにここへ?」
「えっ……あ、はい。旅館のお友だちに会いに……」
問われて、思わずこたえると
「ともだち?ああ、あのあるじさんね。へえ、あの子、ちゃんとコチラとのつきあいもしているのね。あの頭のかたい番頭も、それは許しているの?……そりゃそうね、こどもですもの。同年代のものと交わったほうが良いに決まってるわ。今のことばでは確か……そう、同級生というものかしら?」
少女は、ただコクンとうなづく。
「いいわね、同世代の女ともだち。あたしにはそういうものがなかったから……いや、ひとりちょっと年下の子がいたのだけど、あの子とは疎遠になってしまったから……」
芽依は後々(のちのち)になっても、なんでこの時そんな余計なことを自分は口走ったのだろうと不思議に思った。
ひっこみ思案で、初対面の人とは満足に口もきけない自分が、どうしてこんな差し出がましいことを言えたのだろう?
「――なんで疎遠になったんですか?」
女性は少女にふりかえると、そのおそろしく美しい顔をほころばせて嗤った。
「その女が、あたしの男を取ったからよ」
その、見聞きするものをぞくりとさせる女性の顔と声に、芽依は気づかされた。
いま自分がいる……いや、見ているものはすべて、夢なのだと。




