のりことあやしい旅館22
のりこが訳がわからずきょとんとすると、
番頭は
「……あなたは『それ』を受け取ってしまったんですか?」
冷え切った問いを投げた。
「えっ?うん、ちょっとのあいだだけね。今から返そうと思う」
「……それは無理だと思いますがね」
「へっ?」
のりこは訳がわからないまま、おばの部屋に行くと
「あれ?春代さん?」
いなかった。
それどころか家具や生活品もなにもない、すっかりガランドウになっている。
うしろからついてきた番頭は
「――とりかえしのつかない失敗を犯してしまいましたね、おじょうさん。あなたは、あの悪魔などよりよっぽど性悪な女にだまされたのです」
「えっ?どういうこと?」
のりこが不満の声を上げたとき、
番頭のケータイが鳴った。
「ああ……ちょうど、あるじ……いや、あるじ『だった』女から画像が送られてきましたよ」
そう言って少女に向けられた画面をのぞくと
「……なんだ、これ?」
そこには南国とおぼしき明るい日差しの下、水着すがたにサングラスをかけて海辺に横たわるおば・春代のすがたがあった。ドリンク片手にピース・サインをして、先ほどまでの病身で弱々しいかげなどみじんもない、ゴキゲンのご様子だ。
「セブ島のビーチからだそうです……『のりこちゃん、あとはヨ・ロ・シ・ク』とありますね」
「――えっ?どういうこと?」
いまだ、ことのなりゆきがつかめていない小学四年生に番頭は冷ややかに告げた。
「その鍵は、この旅館の主人をしめす『しるし』です。そのしるしを受け取ったということは、あなたが今日からこの旅館のあるじです」
「えっ!!そんな!だって、あたしまだ小学生だよ」
のりこがしごくまっとうな反論をすると
「人間社会ならば、そのとおりでしょう。しかし『この旅館』はちがいます。異界の論理でものが動きますからね。それはもう、私にもどうしようもありません。
――ああ、やはりあの女はこの宿を押しつけるつもりであなたを呼んだのですね。
『肉親の情』などと聞こえの良いことを言って、私に探させて……初めからそうでないかと疑ってはいたのですが、まさかこうも早く手を打ってくるとは……本当に性悪な女です」
「――ああ、おじょうさん。かわいそうです、まだわかい身空で」
クワクは涙までうかべている。
(えっ?旅館を継ぐって、そんなひどいことなの?)
少女がとまどっていると
「……しかし、なってしまったものはしかたありません。あなたのようなおろかでたよりない少女を主人とあおぐのは、番頭としてくちおしいところではありますが……あきらめましょう」
かってに思いきったメッヒは、すっかり冷静に立ち返って
「では、新しいあるじには早速仕事をしていただきましょうかね?なにせ前の主人は仮病ばかりつかって、ちっともはたらきませんでしたから、仕事がたまっています。あなたには存分にはたらいていただきます」
「そんなぁ!!」
少女のさけびが、せまいロビーにこだました。




