のりこと妖女なお客7
「以来、この街では外部からの襲撃に対する防衛意識が高まりました。町内会を協議会として整備しなおしたのも、そのためです。
当旅館もその協定に入っていますが、まさかこのような形でリリィが来訪するとは想定しておりませんでした。なにせわれわれは旅館業者として、正当な理由もなしでお客さまのご利用を断るわけにはまいりませんので」
ため息まじりに言う。
いや。前に襲撃されたことがあるって、十分断りの理由になると思うけどな。
でも、受け入れちゃったものはしかたない。
「――あなた、彼女とは古い知り合いなんでしょう?街を襲ったりしないで静かにしといてね、とか言えないの?」
少女あるじの素朴な疑問というかお願いに、番頭は顔をそむけて
「……たしかに彼女とは古い付き合いですが、友好な間柄とは言えないかもしれません。むかし、彼女が時間をかけて堕落させた聖職者の魂を、私が横取りして地獄に送ったことを覚えてなければよいのですが……」
だめだ、こりゃ。
番頭にはノー・デリカシーで行くと決めているあるじは
「いくらむかしのことだからって、お客さまとトラブルを起こしてたなんて、まったく使えない番頭ね。あなたったら」
と、なじったら
「……」
傷ついたようだった。
「いやだよ。ご近所ともめることになるのは」
ほほをふくらませて言うと
「――ええ、そうですね。アチラをたてればコチラが立たぬ。浮世とはままならぬものです」
少しいじけたように返した。悪魔め。
「番頭どの!レディがお呼びですぞ!」
クワクの声に、メッヒは
「――さて。ご機嫌をうかがってまいりましょうか」
あるじをフロントに残して、いつもどおりに客室に向かった。
むかしこの街を襲って、おじいさんと戦ったものだと言われても、のりこにはどうしようもない。いつもどおりの接客を心がけるしかない。ご近所ともめたら、そのときはそのときで考えよう。
(――なるようにしかならないよ)
この旅館のあるじになって以来、あまりに多くのやっかいごとに関わったせいか、少女あるじの頭は、ふつうの小学四年生よりずいぶん切り替えが早くなっていた。
そして、そうしている間にも次のお客さまはいらっしゃる。
「いらっしゃいませ!ご宿泊でございますか?」
すっかり客商売に慣れた満面の笑顔で、少女あるじは応対した。
そのお客は二頭のライオンだった。




