のりこと妖女なお客6
「……もしくは、お前ぐらいか?メッヒ」
話をふられた悪魔番頭は、首をすくめて
「――それは、悪手でしょうね。私とリリィが本気でぶつかった場合、その被害はどうしても大きくなるものかと存じます。この街に人が住めなくなってしまっては、まずいでしょう。そもそも、お客さま相手にそんな粗相を私はいたしませんよ。お客さまの快適が第一です」
職業人としてのプライドを見せた。
「それがこの街の利益と反し、敵に回すことになってもか?」
ヨウイチロウの問いにも
「……そうはならないよう、最善の努力をいたします」
ぼやかした返事をした。
ヨウイチロウは
「――チッ。気休めだな、この悪魔め。まったく、幹久のやつもロクなやつと契約しねぇ」
顔をいがめると、一転きびしい表情で
「とにかく、あの女がヘンな動きを見せようものなら『おれたち』は動く。……しかたねぇぞ。おじょうちゃんも、そこだけはわかっといてくれ。
憎むんなら、こんな頭の固い悪魔と契約した父親を恨んでくれよ」
そう言い置くと、ご近所さんは帰っていった。
のりこは早速、番頭に向かって
「いったいどういうこと?あのおじさん、怒ってたよ」
問いただすと、番頭は腕をこまぬいたまま
「――まあ、この街に生きるコチラモノとしてはやむを得ない態度でしょうね。話にも少し出ましたが、あのお客さま……リリィがこの街を訪れたのは、今回が二回目です。前回は戦後すぐ、もちろん私もまだこの旅館に勤めておりませんころです。ですが、そのとき巻き起こったリリィとこの街の『戦い』は、当時世界中のアチラ関係者のあいだで話題になったことです」
「たたかい?」
「ええ。リリィはかつて、このかむのの街に襲撃をしかけました」
――へっ?それってヤバくない?
「ヤバいです。彼女によって滅ぼされた都市や国は歴史上、数知れません。
火山噴火や地震などの自然災害・新種の伝染病の流行・民衆を扇動しての大規模反乱・君主を色香でたぶらかしての傾国、などなど……彼女はさまざまな趣向を凝らして人間を破滅の恐怖に陥れてきました。たいしたものです」
感心するんじゃないよ。
「しかし、このかむのの街はあの強力な妖女の侵攻をしのぎ追い返しました。そんな街は、人類史上空前そして絶後でしょう。彼女の襲撃をしのいだことで、この街は世界的に有名になりました」
ふうん、すごいんだね。
「その際は、当旅館も町内会の一員としてリリィとの戦いに臨みました。幹久さまの父上……あなたさまのおじいさまは、もちろん優秀な術者でしたのでね」
この旅館にそんな歴史があったとは知らなかった。




