のりこと妖女なお客4
リリィたちが奥に入ると、のりこは
「ふぅ――――っ」
と、大きく息を継いだ。
そして番頭に
「なんでだろう?あたし、ちょっと疲れちゃった。なんだか、いつもより気を張らなきゃいけない感じがしてさ」
言うと、番頭はうなずいて
「あのレディと直接対峙して正気を保っておられるだけで、たいしたものです。ふつうのものでは、そうはいきません。鍵の力があるとはいえ、さすがです」
旅館のあるじのしるしである「ソロモンの鍵」を持っているのに、万全じゃないの?
――なに?あたし、そんなヤバいのと会ったの?
「あのお客さま、いったいなんなの?なんでクワクとかまで緊張してるの?」
あるじの疑問に、番頭は
「彼女はわれわれ……アチラモノの業界ではかなりの大物です。本人の前では言えませんが、かなりの年長……古株です。クワクぐらいのこどもでは、それは緊張するでしょう」
「あなたも緊張してるの?」
あるじの問いに
「……ふむ。キャリアとしてはたいしてかわらないんですが。彼女は早くから表舞台に顔を出していましたからね」
微妙にずらした返答をした。この悪魔にとっても、気をつかう相手であることはまちがいないようだ。
「……しかし、彼女がふたたびこの街に来るとは意外でした」
それ、さっきも言ってた。いったいどういうこと?
根問おうとすると
「――じゃまするよ」
おとないがあった。
旅館に入ってきたのは、白っぽい半纏を着て日焼けしたマッチョな壮年男性だった。
「あっ、河野のおじさん、いらっしゃい……どうしたの?こんな時間に」
のりこが応対したのは、かむのに本拠を置く小物メーカー、河野製造の社長・ヨウイチロウだった。彼はかむのの組織……協議会のメンバーで、のりこが旅館のあるじとして親しくしている数少ない(コチラモノの)ご近所さんだった。
なんでも現在行方不明ののりこの父・幹久とは、こどものときからの幼馴染とかで、このかわった街のしきたりなど、なにも知らないのりこに丁寧に教えてくれる気の良いおじさんだ。メッヒに、それには関わるなと注意を受けているのでくわしくは知らないが、なんとか団という変わったサークル活動の団長もしているらしい。
いつもテカテカとしてほがらかな筋トレ好きのおじさんだが、今日はその顔がけわしい。
「ふむ、のりこちゃん……に言っても仕方ねえな。――おい番頭、どういうつもりだ?なんだって、あの女を迎え入れた?」
その声は重く迫力がある。聞いたことのない声だ。
番頭は、それに対して平然と
「それはもちろん、ご宿泊のご予約をいただきましたのでね。旅館業の当然の責務として、ご利用いただくだけです」
「そんなもの、協定違反だ!あの女がこの街に『侵入』した場合、それを阻止することには、この旅館も協力するはずだ!」
声を荒げた。




