のりことあやしい旅館21
メッヒは当然そうに
「そうですよ。だって長細いでしょう?――それに藁も出てます」
言われてみると、たしかに細かいわらくずが道に落ちている。
じゃあピシピシ・カサカサ音がしていたのも、中身が竹やわらだったからか!
「――あのかかし (ブー・ニン)がいる地域では、田植えの季節になると村対抗で水かけ合戦がもよおされるんですが、なんでも最近、隣村がアメリカ製のカートリッジ式・水鉄砲をそろえたとかで、彼の村は敗戦つづきだそうです。
彼はその雪辱に燃えるボス……『田の神』に命じられ日本に水鉄砲の買い付けに来たのです。
かつて同じ眷属のカエルの精 (コン・エック)が日本に来たとき、私が高性能の水車を紹介しましたから、そのつながりです。
今回はなにせ飛距離一〇メートル、電動式で水の補充も常時可能のものをそろえましたから勝利はまちがいないでしょう。
ふふっ、メイド・イン・ジャパンのおそろしさを見せてやりますよ」
その笑顔は、まるっきり悪魔みたいだった。
のりこは、つばをのみこむと
「じゃあ本当に……この旅館は人間『以外のもの』が泊まるんだね?」
たしかめるように番頭に言った。
「ええ。それこそ神や精霊、妖怪や魔物、怪物といわれる方々いっさいを、当旅館は差別なくむかえております」
そこに大きなほこりがあるらしくメッヒは胸をはると、つづけて
「そもそも、おかしいと思いませんでしたか?当館にお泊りのお客さまはいろいろな国からいらした方々です。もちろん使うことばもそれぞれのお国のものです。なのに、あなたはどのお客さんのことばも問題なくわかったでしょう?」
「あっ!そうだ」
最初にこの旅館に来た時から、なんだか妙だと思っていた正体はそれだ。
どの客のことばも日本語とちがうはずなのに、なぜだかすべて、問題なくのりこにもわかっていたのだ。
「それが、この旅館自体が持つ力です――そういうところから、異常さに気づくかと思っていたのですが、あなたの知能程度ではやはり無理でしたか」
あいかわらずいやみたっぷりな言い方だ。
「なんで初めからそうだと言ってくれなかったの?」
のりこが口をとがらせて言うと、
メッヒはまたも眉根をよせて
「……私としては最初から言っておいたほうがいいと思ったのです。しかし、あるじに口止めされましてね」
「あるじ……春代おばさんが?」
(なんかヘンだな)
「どうせ、この封筒もあるじがあなたにわたしたのでしょう。まったく、あのナマケモノはよけいなことだけする……」
番頭が顔をしかめるので、
のりこが
「ううん、それはあたしが持ちだしたの。おばさんがこれを貸してくれたから……」
と、あずかったマスター・キーを見せると
「……」
メッヒの表情がかたまった。
クワクまで
「おお……なんたること」
と、顔を青ざめさせおののいている。




