のりことお友だちのお泊り会29
次の日の朝、少女三人は番頭の給仕のもと朝食をとった。
旅館らしい塩鮭焼と味噌汁、生卵などの朝御前である。
「……いつのまに寝ちゃってたんだろう、あたし?」
「あたしも。ぜんぜんおぼえてないよ」
美桜は首をかしげて
「なんだか廊下で小鳥を追いかけたような気がするんだけど、そんなはずないよね?」
「さようでございますね。当館に小鳥は飛んでおりません」
メッヒが給仕をしながら平然とウソをつく。
さすが悪魔だ。のりこはウソをつくのが苦手だから、こういう時は助かる。
「夢でございましょう」
「そうか……リアルだったな」
芽依は
「あたしは、なんでだか美桜ちゃんと遊園地に行く夢を見たよ。
昨日会ったヒゲのお客さんに追いかけられてこわい思いするんだけど、のりこちゃんと番頭さんが助けてくれた」
「……ふうん。あたしたちもいいことするんだね」
のりこは必死にごまかす。
ふたりの少女には、メッヒが記憶操作をほどこして、昨日会ったことは途中からすべて夢だと思うようにしたのだが……
「美桜さまはともかく、芽依さまは術への抵抗が強いですね。夢でなかったと気づくかもしれません」
「えっ?どうすんの?そのときは。
この旅館のことをくわしく知られたら、まずいんでしょ?」
「あるじのお許しさえあれば、私が彼女を闇から闇へと消しさ……」
「ゆるすわけないでしょ!バカッ!!」
「……では仕方ありません。芽依さまが気づかないことを祈るのと、あるじが彼女になにを聞かれても、うまくごまかすようにされることでしょうね」
ごまかすのは苦手だ。たのむから、芽依ちゃんにははっきり気づかないでほしい。
「――あれ?あのヒゲのおじさん?」
少女たちが廊下に出ると、呂洞賓がラウンジのテーブルを拭いていた。
「臨時働きさん、ここに拭き残しがありますわよ」
「は、はいっ、先輩」
アンジェリカのきびしい指導のもと、精を出していた。
「あの人、お客さんじゃなかったの?」
美桜の問いに、のりこは
「宿泊代を払うことができないんだって。しかたないから、少し働いてもらうことにした」
「へえっ!そんなことあるんだ?」
「うん、こまったもんだよ」
仙人は、少女たちを見かけると
「あっ、いらっしゃいませ、お客さま!」
平身低頭で大きな声を出す。おそらく少女人形にしごかれたのだろう。
(アンジーがここのところ調子が良かったのは、あのメリーゴーランドが動いて生命力が供給されてたからなんだよね。あの子も人形だから)
「この方々は、今からご出立です」
メッヒのことばに
「あっ、そりゃどうも失礼つかまつりやした!見目うるわしきおじょうさまがた!」
八仙随一とも思えぬへつらい態度で応じる。
「どうぞ、行ってらっしゃいませ!良き旅を!」
玄関を出ると
「……昨日会ったのに、おかしなおじさんだね」
美桜がわらいながら言ったので、のりこもわらって
「そうだね!へんなおじさん!」とかえすと
芽依が耳元でこっそり
「ふ~ん……そういうことにしとけばいいんだ?」
いたずらっぽくささやくものだから、少女あるじはどぎまぎした。
(第三期おわり)
今回投稿ぶんで「小説家になろう」さんでの「旅館」の投稿は、いったんお休みをいただきます。
続きを投稿するのは、けっこう先になります。
先に読みたい方がおられましたら、他サイトですが、エブリスタさんで続きが読めます。
https://estar.jp/novels/25590902
それと、明日3/5から同じくエブリスタさんで「人形蔵ものがたり」という作品の投稿を始めます。
「旅館」と同じ街が舞台ですが「旅館」以上に、いわゆる児童文学っぽい感じです。
興味があれば目を通していただけると、うれしいです。




