のりことお友だちのお泊り会27
「それにしても、あのニセモノの呂洞賓さんにはだまされちゃった。
せかすのが上手なんだもの」
ぼやくと、番頭は
「たしかに……あの人形には、こまったものでしたね」
なんだ?そのあっさりとした言いかた。なんか、だまされてた感があまりないじゃない。
「――あなた、もしかしてあの仙人がニセモノだって知ってたの?」
あるじの疑惑に、番頭はシレッと
「とちゅうからですがね。おかしいところがいくつか見受けられましたから。
いくらうっかりもので有名な呂洞賓だとしても、乾闥婆の城がまぼろしであることに気づかないというのは、いかがなものかと思いました。
決定的だったのは、彼が『水の中は苦手だ』と言ったことです。人形だからぬれるのはいやだったんでしょうが、それは本物の呂洞賓としてはあまりにおかしい発言です。
なにせ、かつて彼ら八仙が東海の龍王たちともめて竜宮城に殴りこみをかけた話は、彼の国では有名で、こどもでも知っています。わたつみの底にまでくぐったものが、たかがそこらの池に入れないはずがない」
とうとうと述べた。
そのわるびれない態度に
「じゃあ、なんで早くからしょっぴかなかったのよ!?
ぬすっとだってわかってるじゃない!」
怒りのあまり、クワクのような時代劇がかった言いぐさになったあるじに対して、番頭はあくまで冷静で
「証拠をつかんでおりませんでしたのでね。あくまで疑念があった程度です。
それに、彼がお客さまであることは変わりませんでした。
お支払いのほうも、ちゃんといただいておりましたしね……もちろんいただいた宿料に、ニセガネは含まれておりません。そこは、わたくしがちゃんとチェックしております。
おそらく幹久さまが置いておいたへそくりかなにかでしょう。問題なくいただきます」
そしてコホンと、せきをはさむと
「――それにひきかえ、あなたさまからは、まだちゃんとした支払いをいただいておりません」
いつのまに手に入れたのだろう、ふところから取り出したのはホンモノの呂洞賓が閉じこめられた水差し(浄瓶とかいうらしい)だった。
蓋を開けると出てきたのは、さっきのニセモノとまったく変わらない、しどけない浴衣すがたの仙人だった。
「――ふうっ!いやはや、とんでもねえ目に合ったな」
あぐらすがたでヒゲをしごくそのすがたに、緊張感はまるでない。




