のりことお友だちのお泊り会26
「んにゃ。たしかに物語ではそうなってるだども、実際はこんな貴重な木馬を壊すなんて、そんだもったいねえこと出来ねえよ。
こっそり王子の子孫がかくしもってたんだども、こないだのペルシアのお国さわぎ……こっちで言う『イラン革命』ってやつが起こったどさくさに外に持ち出されて、そのまま行方不明だったんだべ」
ヴァリさんは、インドのおサルさんのはずなのに中東のことにもくわしいんだ?
「おらのおっとう筋はたしかにインドのヴァナラ族だども、おっかあの先祖は『千夜一夜物語』に出てくる、魔法でサルに変えられた人間の王子だがんな。だから、おらは母方の郷の宝であるこの木馬をずっと探してたんだ」
おサルの告白に、メッヒもおどろいたようで
「ほう、そうですか?その王子はたしか『荷担ぎ屋と三人の娘の話』に出てくる『三人の遊行僧』のうち、ふたりめの僧の正体でしたよね?」
「ずら」
(なに、その入り組んだの。いやがらせか?)
ふたりのやりとりは『千夜一夜物語』をちゃんと読んだことのないのりこには、もちろんチンプンカンプンだ。
「今回、おらがわざわざ日本に来たのも、この『黒檀の馬』を仕入れた日本人がいるって、うわさに聞いたからなのさ」
(その日本人がフユヒコか……なんだろう?ラビの『ダビデの星』といい『黒檀の馬』といい、自分の趣味のためによその貴重な宝を買い集めたって、なんだか身内としてものすごくはずかしい!)
のりこのしかめっ面に、番頭もうなずいて
「たしかに、あの先々代あるじのくだらない趣味には私も困らせられたものです。
なにに使うか意味不明な品々を買いあさるために資金をずいぶん持ち出して、この旅館の経営をかたむけました」
それ以上言わないで!なさけないから!
「――ぜひ、この木馬をおらに売ってけれ」
申しわけないのりことしては、ヴァリに『黒檀の馬』をただ引き取ってもらおうと言ったのだが、誠実な商売猿である彼は
「それはいけねえよ、おじょうさん。べつにあんたのおっとうは、この木馬をむりやり盗み出したわけじゃねえ。正当に金を出して買ったんだ。
そのおっとうの品を他人にわたすっていうからには、ちゃんとカネをとらなきゃだめだ。
あんたも宿の主人なんだから、それぐらいの商売のきびしさは持ってねえどいげねぇぞ。カネは大事にするもんだ。
おらも今回の旅では、いろいろ痛い目も見たけんど、結果こいづを見つけることができてよかった。わざわざ日本に来たかいがあっだってもんだ」
すごく男前なことを言うおサルさんだ。
「そのとおりです、あるじ。値段交渉については私がすすめます」
うん。ややこしいことは番頭にまかせよう。




