のりことお友だちのお泊り会25
「はぁ~っ、じいさまも長いあいだ、ご苦労なこったんだねぇ」
あっけにとられたのりこのうしろで、しみじみと言ったのはお猿のヴァリだ。
そのわきにはなぜか黒い木馬を抱えている。メリーゴランドにあったものだ。
「……ヴァリさん。いったいなんのつもりなの?そんなもの持って出て」
少女のふしん顔に、サルはあわてて手を振って
「おら盗っ人じゃねえよ、おじょうさん。――ただ、ほんとにあんたのおっとぅはとんでもねぇ男だってことさ。
この『黒檀の馬』を回転木馬につかうだなんて」
「こくたん?なにそれ?」
少女のけげんに答えたのは、番頭だ。
「黒檀は、古来より器物に賞用されてきた上等な木材です。
というより、あるじはまだ『千夜一夜物語』をちゃんと読んでないのですかね?」
「千夜一夜……って、たしか『アラジンと魔法のランプ』とかでしょ?聞いたことはあるよ」
のりこの答えに、番頭は
「『アラジン』は本来の『千夜一夜』ではなく、むしろ外典とでもいうべき物語ですがね。
綾石旅館のあるじとして『千夜一夜物語』は、フィルドゥシーの『王書』などとあわせて、ぜひちゃんと読んでおいていただきたい物語集ですね。
イフリートのような中東からの魔神系のお客さまをおむかえするためには、必読の書物です」
なんだよ。今そんなむずかしいこと言わないでよ。
こないだ言われた『ラーマーヤナ』とかいうのだって、ぜんぜん読んでないのに(字が小さくて分厚くて、ページを開くのもイヤだった)。
「とにかく『黒檀の馬』は『千夜一夜物語』に出てくる魔法の木馬です。乗って、空を飛んだりできます」
「んだ」
(「んだ」って言われても……ただのきたない木馬だけど)
のりこがホコリっぽい木馬をうろん眼で見てるまに、番頭と猿はふつうに会話を続ける。
「しかし、たしか『黒檀の馬』は、ペルシアの王子がそれにまたがっていろいろな冒険をしたあと、悪人に利用されないようにと破壊したのではなかったですか?」




