のりことあやしい旅館20
のりこはメッヒに
「……かむのいしって、あの白い粉のこと?」
「ああ、ごらんになったんですか。ええ、あれはこのあたりで取れる流紋岩系の鉱石です」
「鉱石って……石でしょ?でも、あの女、なめてたよ」
「ええ、あの山の神はあの石に目がなくてね」
「……神?」
「ええ、あれはロシアのウラル山脈一帯をおさめている山の神……蛇の女王です。鉱石の味にはたいへんうるさい方ですが、かむの石はことのほかお気に入りでしてね。いらっしゃるたびに欲せられます。
しかし今、新規に取れるかむの石はほとんどないのです。クラレ―ヴァの親類で、かむのの地下の主であるアカカガチでさえほとんど持っていません。
なにせ『かむの鋼』を手入れできる唯一の砥石ですから、研ぎ師がおさえているんです。うちが持っているのは、かむのの研ぎ師にゆうづうしてもらったその削りカス……砥粉です。
かむの石はほかのゴブリンやコボルトといった鉱山系の精霊も欲しがるので、クラレ―ヴァにばかりゆうづうしてはダメなんですが……どうもクワクはヘビに弱い」
「しかたありませぬよ。わが一族はむかしから長虫には弱ぁござる」
クワクは首をすくめた。
どうやら白い粉はあぶないオクスリではなさそうだ。しかし、もうひとつの疑惑はのこっている。
「じゃあ、じゅ……」
のりこが思いきってたずねようとすると、
今度は、あの棒っきれのように細長いアジア青年が部屋から出て来た。ごきげんそうだ。
「ああ、番頭。いま性能たしかめたけど、よかった。これでボスもよろこぶ」
その手にあるのは
「銃!……て、あれ?」
青年が持つのは、黄色と緑の蛍光プラスティックでつくられた
ピュゥ――ッ。
ライフル型の水鉄砲だった。
「それはようございました。のこりの分は空輸でお送りしますのでご安心を。では、お気をつけてお帰りくださいまし」
なにごとも問題なく客を見送る番頭に
のりこは
「ねえ、あれってあなたが用意をたのまれてた銃?」
「ああ、なんですか。そんなことまで聞いていたんですか?意外と油断のならないおじょうさんですね、あなたは。――ええ、集めましたよ、三〇〇丁。たいへんでしたが」
「水鉄砲を三〇〇丁も?なんで?」
「ふむ。たしかにベトナムの案山子が水鉄砲の買い付けに来るのはめずらしいことです。あなたのオツムではちょっと見当はつきかねるでしょうね」
また失礼な言い方をされたが、それよりもはるかに気になることばがあったぞ。
「ちょ、ちょっとまって。あの人ってかかしなの?」




