のりことお友だちのお泊り会21
じゃあ、あのワニ女ともめたときにはすでに入れかわっていたのか。
「そういうことさ」
少女あるじとしては、あのときの面倒ごとについても言いたいことはいっぱいあったが、それよりも今は
「芽依ちゃんと美桜ちゃんを返しなさいよ!」
のりこの必死の訴えに、しかしにせロイは
「そうはいかねえ。残念ながら、まだほかの仲間たちが自由に動くにはアニマが足りねえ。
おれたち人形が生きて動くには人間……特におじょうちゃんたちのような若いこどもの生気が一番だ。友だち三人仲良くそろって、おれたちの栄養となりねえ」
かってな言い分に、のりこは
「あなた。あたしが今は旅館のあるじよ。その言うことが聞けないの!?」
「あいにく、おれたちはあくまで幹久が作ったこのからくり空間……虚構世界の住人だ。たとえソロモンの鍵のもちぬしであっても、その支配権はおよばねえ」
「メッヒがたすけに来……」
希望のさけびにも
「のぞきからくりに入るには、おれたち内部の許可がいる。たとえあの悪魔だって、かってには入ってこれやしねえさ。無理にこじあけようとしたら、中にいるあんたたちを傷つけることになる」
そう言うと、今も軽やかな音楽を奏でながら回るメリーゴーランドのほうを見て
「それにしても、あの回転木馬はよくできてやがる。さすがおめえの親父が、特別な木馬と呪符をつかって作っただけあるな。
ああやって回りながら、乗りこむ子らの生気を吸い上げて行くのさ」
そんな!ひどいこと!
「まあ、あきらめな。合わせて三人……こんだけの娘っ子の生気を吸い上げりゃ、仲間たちにも十分なアニマが与えられるぜ」
にせ呂洞賓が、のりこの腕をねじって引っぱろうとしたそのとき
ポゥポゥポゥ、ポゥポゥポゥ……
鳥の鳴き声がした。
カササギはにせロイの肩に静かにとまったままなのに、いったいどこから……と思うまに飛んできたのは
あっ!あれはさっき廊下で、にせロイが小刀で射落とした鳥だ。
カササギが飛びかかってやっつけようとするが、逆にそれをついばみ落とした。
カササギはただのおもちゃにもどった。
「――さすがイスラエルの国鳥・ヤツガシラ。
どろぼうカササギごときには負けませんか」
そのおなじみの冷ややかな口調は
「メッヒ!それにクワクたちも」
そこにいるのは番頭と男衆……さらには宿泊客であるヴァリやラビのすがたまである。
「てめぇら、どうやってこのからくりの中に!?
だれにも許可をあたえていないのに!」
にせ仙人のさけびに答えたのは、老ラビだった。
「……おまえたち人形は、たしかにわしとなにも関係がない。
ただ、その回転木馬の上に貼られた『ダビデの星』は、もともと師父・レーヴがしたため、わしが引きついだもの……それの許可を得ることは可能だ。
ヤツガシラよ。あの札をうばえ」
「――やめろっ!!」
ダビデの星に向かって飛ぶ粘土づくりのヤツガシラに、にせロイが小刀を投げつけるが、メッヒが手持ちの伝票用紙を投げつけ、小刀をはじき飛ばす。
(紙っ切れで小刀に勝つなんて、さすが悪魔だ)
ヤツガシラは問題なく天蓋にたどり着くと
――メリッ!
札をはがした。




