のりことお友だちのお泊り会16
その勢いに奥にやぶれ倒れた障子戸の先にあったのは、今までの畳敷きの部屋とは異なった、暗い納戸部屋だった。
物置として使っているらしく、大きな調度品や置物・人形が乱雑に置かれてある。
こんな部屋があることをのりこは知らなかった。
ただし、そのことじたいは不思議でない。この旅館にある部屋はややこしくて、あの番頭ですらそのすべてを把握しきれてはいないのだから。
仙人は
「幻術の一種だな。障子を延々と開けさすうちに、催眠術のように意識をもうろうとさせて『取りこもう』って腹だろう」
「取りこむって……どこへ?」
少女が問うと
「その箱を見てみろ」
納戸奥にある、大きくて奇妙な箱を指さした。
けばけばしいサーカス小屋風のあしらいに、大きく「Animated World」と書かれた下にはレンズ状のガラスがいくつかはめ込まれてある。
「なにあれ?」
「中をそこからのぞいてみな」
少女が言われたとおりガラスをのぞくと、そこにあるのは……
古い時代のアメリカだろうか?
人出がわんさとある、たのしげなフェスティバルのもようだった。
人物にしろアトラクションにしろ、フィギュアや書き割りの絵でごちゃごちゃと表現され、それがぎこちない機械仕掛けで動いている……その楽しい情景に、思わず目的をわすれてのりこが見とれていると……
「えっ!?あれって芽依ちゃんに美桜ちゃん?」
ごちゃごちゃとした群衆のなかに、遊園地にも似つかわしくない浴衣すがたのお友だちのすがたが見えた。
どうやらなにかを追いかけているらしい。
顔をあげたのりこが「どういうこと?」とたずねると、呂洞賓はヒゲをしごいて
「その子らは、すでにこの『のぞきからくり』の中に取りこまれちまったんだ。まったく、とんでもねえものが動いてやがる」
なんでこんな箱がこの納戸に置いてあって、かってに動いているのか、それにラビやドロボウがどう関わっているのかとか、気になることはいっぱいあるが、今はそんなことはすべて後回しだ。
とにかく芽依と美桜、ふたりの少女を救いださないと!
せっかく泊まりに来てもらったお友だちをこんな目に合わすなんて、のりこは居たたまらない。
「どうしたら芽依ちゃんたちを助けられる!?」
少女の切羽つまった問いに、仙人は
「そりゃもう、俺たちもこの箱の中に入るほかあるめえよ。……ちょいと危ねえ道行にはなるだろうがねぇ」
異常に気づいたメッヒとクワクがあるじを追いかけて納戸部屋に入ったとき、のぞきからくり箱の前にはもう誰もいなかった。
「番頭どの!」
「ふむ、入ったか……これは少しやっかいだな」
男衆蜘蛛は、番頭のいかにもいつもどおりの冷ややかな声音のなかに、わずかなあせりがあることに気づいた。




