のりことお友だちのお泊り会13
すっかりうちとけたのりこは、ついつい従業員たちへの愚痴をこぼしてしまう。
「番頭はきびしいけど、それは良いんだ。旅館のためだから……それよりも、あたしが『犬と散歩したい』って言ってるのに、ゆるさないのが一番なっとくいかない」
「えっ?この旅館、ワンちゃん飼ってるの?あたしたち見てないよね」
「メッヒが変身……いや、飼ってるんだよ。かわいいんだけど、あたしには散歩させてくれないんだ。あいつ、ケチンボだから」
つづけて
「あのクワクだって、いいかげんなんだよ。返事だけは元気いいけど、すぐ用事わすれるし……こないだなんか、かってに家出してみんなを心配させたりしたんだよ」
「家出……それはたいへんだね。でも、あのクワクさんって日本語じょうずだしおもしろい言いかたするよね。
あたしたちのこと『オオッ!サクラソウのように可憐な娘がたでござるな!』なんて」
芽依のフォローにも、のりこは頬をふくらかせて
「あいつ、あたしのことは『いくら踏まれても平気なたんぽぽの花』とか言うくせに!失礼しちゃう!」
そのあとも少女あるじの愚痴は止まらず、しまいには
「あたしは、芽依ちゃんと美桜ちゃんがうらやましい。カッコイイ名前だもの!
あたしの『のりこ』なんて、むかしふうの名前だもん。いったいだれがつけたんだろ?」
などとヘンなことをうらやんで、芽依と美桜をこまらせた。
「――ごめんなさい。寝る前にちょっと従業員のみんなに会ってくるね。夜の当直とかあるから」
そう言って部屋を出たのりこを見送ると、芽依と美桜は顔を見合わせた。
「いそがしいんだね、のりこちゃん」
「うん。あれじゃ、まるっきり本物のあるじだよね。ストレスたまってるんじゃない?愚痴がすごかったもの」
「うん。かわいそうなぐらい」
美桜はあらためて部屋を見わたすと
「あたし、旅館には何回も泊まってるけど、こんなかわった旅館はじめてだよ。たしかに設備は古いけど、こんなにサービスが行きとどいた宿ははじめて。
かむのに古くからある老舗の宿らしいのに、なんでそんなに有名じゃないんだろう?……ウチのパパが調べても、よくわからなかったって言ってたもの」
「美桜ちゃんのお父さんが?」
すごく大きな会社の社長さんなのに?
「うん。あたしが泊まると決まってから、気になって調べたんだって。でも『なぜだか、どう調べても細かいことがまるで分らないんだ』って。
『調べれば調べるほど、この旅館がほんとに実在するのかどうか自信が無くなってくる』とも言ってた」
「やだ。実在するかもって、あたしたち現にこうやって泊まってるじゃない。
――いやだよ、朝起きたら道ばたに寝てるとか」
「それじゃ、まるっきりオバケの宿だよ」
それが正解だということに、少女たちはもちろん気づかない。




