のりことお友だちのお泊り会11
「――はいな。そりゃもう、あるじは良ぅしてくれはりますわ。
あるじのおかげで、わては仕事に復帰させてもろたんです」
関西弁ひとつひとつの言いぐさが、聞きなれない少女たちにはおかしくて、ついついわらってしまう。
料理じたいもすごくおいしくて、美桜が
「今までいろんなホテルや旅館でゴハン食べてきたけど、お美和さんが作ったこれが、まちがいなく一番おいしい」
と言ったほどだ。
おつくりやてんぷら、小鍋もすべて美味だったが、芽依には特に茶碗蒸しがおいしかった。かまぼこに銀杏、三つ葉にシイタケというシンプルな具なのだが
「お美和さんは西の人だから、お出汁にはうるさいんだよ」
と、のりこがうれしそうに言うとおり、ぷるんとしたたまご生地自体がとてもおいしい。
「いつもこんな凝ったごはん食べてるの?」
と芽依がたずねると、お美和が
「そないなことおまへん。ふだん、あるじにはふつうのオカズをお出ししてます。こういう気張ったごはんは、たまにはよろしいけど、しょっちゅうやと飽きますわ」
「うん。お美和さんのつくるコロッケとか、すごくおいしいんだよ!
牛肉と玉ねぎがたっぷり入ってて。なのにあっさりしてて、何個でも食べられちゃうの」
「へい、おおきに。あるじは食べもんに好ききらいおまへんから、ラクですわ」
ふたりのことばに、美桜が
「えっ?じゃあ、お客さんとのりこちゃんたちのごはんを、別につくるの?」
たずねると、陽気な料理人は
「へえ。もともとウチのお客さんは、食の好みにものすごうクセがある方が多いよってに、お客さんそれぞれに違たもんを拵えてお出しするんが、慣しですわ」
「お客さんに合わせて、いちいち別のごはんを用意するの!?」
美桜はおどろいて
「すごーい!そこまでしてくれる旅館なんて聞いたことないよ。
ここは、ほんとうにすごく高級な旅館なんだね!」
そのことばに反応したのは、それまで静かに給仕を手伝っていた番頭だった。わきあいから
「――さすがは、あるじのご友人。たしかなご見識をお持ちのようですな」
おさえた口調のなかに、よろこびがにじみ出ていた。
(どうもこの番頭さんは、自分の勤める旅館になみなみならぬ誇りを持ってるみたい)
芽依は、きびしそうな番頭の意外とかわいらしいところを発見して、おかしくなった。




