のりことお友だちのお泊り会10
きのう客や番頭と交わしたそんな会話を思い出しながら、のりこは浴場の湯船にひたっていた。
いっしょにお風呂に入っているのはもちろん、自分が招待した二人のクラスメート・芽依と美桜だ。
ちょっと早いかと思ったが、釜焚きのユコバックに
「あるじ。先に入っちまったらどうだ?いまのうちなら貸し切りにできるぜ」
と言われたから、すすめられるままに大浴場に入ったのだ。
三人っきりで大きなお風呂に入るのはぜいたくな感じで、それだけで楽しかった。
「――えいっ!」
「きゃあっ!」
美桜が芽依に、水鉄砲でお湯をかけてたわむれる。
水鉄砲やアヒルのおもちゃで遊ぶなんて、ふつうに客がいるときにはぜったいできないが、ユコバックが気を利かして置いておいてくれたのだ。
さすが、あの伊達男ふう悪魔は女性の機嫌を取るのが上手だった。
「ねえ、のりこちゃん。あそこにある大きな甲羅っぽいのはなに?オブジェ?」
浴場の端っこに置かれたものについてたずねられたのりこは、湯気にぼんやりとして
「――ああ、それはこないだ泊まったアフリカのカニさんのだよ。お風呂につかってるうちにあんまり気持ちよくなっちゃって、そのまま脱皮しちゃったんだ」
と、つい正直に説明したら
「――ふふっ。のりこちゃんって意外と冗談が好きなんだね」
と、ふたりに笑われて、ちょっとあわてた。
(そうだった。ふつうの宿ではカニさんはお風呂に入らないんだった。あたしも、この旅館に慣れすぎてる。気をつけないと)
わらってごまかす少女だった。
そのあと、みんなで浴衣に着替えて部屋にもどると、もうすでに夕ご飯の用意がしてあった。
テーブルの上にひとりひとり料理が並べられていて、ほんとうにふつうに旅行をしに来たみたいだ、と芽依は思った。
しかし、まさかはじめてのお友だちの家へのお泊りが、こんな立派なものになるとは。
「これじゃ、まるっきり旅行に来たのとおなじだね。……っていうか、こんなすごいおもてなし、あたしが行った旅館でもあんまりないよ」
実は金持ちの家の子で、旅行にもしょっちゅう行っている美桜がそう言うのだから、そうなのだろう。
旅行の経験があまりない芽依は緊張する。
(ほんとうは美桜だって、親のともなわないお泊りは初めてなのだから緊張しているのだが、ほこり高い彼女はそういうところは見せないようにしていた)
料理人が女性だというのにも、おどろいた。
(かってに旅館の板前といえば、白い帽子をかぶったおじさんだと思いこんでいたのだ)
そのお美和という作務衣にマスクすがたの女性は、みずから給仕をしながら少女たちに陽気に話しかけてくる。




