のりことお友だちのお泊り会6
そのあとのりこは、芽依と美桜を旅館内の案内につれ出した。
それにあわせて、各所にいる従業員たちを紹介していく。
芽依は、釜焚きさんがとてもハンサムな赤髪男性であることにも、部屋の掃除をしている女子衆さんが人形みたいにかわいらしい女の子であるのにも、びっくりした。
なんだかこの旅館の従業員たちは、まるで映画のなかの人物みたいにみんな現実ばなれ、というか人間ばなれしている。
(のりこちゃんだって、かわいい顔だもの。絶対、この先すごい美人になる)
のりこファンの芽依は、ひそかにその将来を楽しみにしているのだ。
「――ほお。どうにもかわいらしいお客だな。嬢ちゃんの友だちかい?」
ラウンジで小休止にお茶とお菓子を楽しんでいたこどもたちに声をかけてきたのは、浴衣すがた、長髯のおじさんだった。
そのふだん街の中では見かけぬ風体に、少女ふたりはびっくりだ。のりこはほほをふくらかせて
「もおっ。ロイのおじさん、びっくりさせないでよ。他のお客さまにはヘンなちょっかいはかけないで、ってお願いしたでしょ?」
なじると、みょうに貫禄のあるアジア人客は顔をにこつかせて
「いいじゃねえか、すこしぐらい。『客』たってコチ……ふつうの人間だろう。にぎやかしの余興に、ひとつオレが手品なと披露してやろうかな?というサービス心じゃねえか。リーやチョウだけじゃねえ。オレのワザだって、ちょいとしたもんだぜ」
そう言うと袖から急に大きな花束を出す。
いったいどこにしまっていたのだろう、と少女ふたりはびっくりだ。
「花のようにかわいらしいおじょうさんがたにオレからのプレゼントだ。どうぞ楽しんでいきねえ」
ロイのことばに
「いいからほっといて。おじさんがからむとロクなことないから」
のりこはなにごともなかったかのように花を受け取ると、宿泊客をつれなく追いやる。
廊下の奥に消えたのを見送ると、美桜が
「……かわったかんじのおっちゃん。ヒゲがえぐい」
のりこはため息をついて
「うん、中国からいらしたお客さまなんだけどね。ほかのお客さまにすぐちょっかいを出すこまったところがあるの。だけどウチのことを気に入って長逗留してくださってるから、強いことは言えないんだ」
その、まるっきり客商売を営むプロが愚痴をこぼす言いぐさに、同級生二人はだまって顔を見合わせた。
それに気づかず、のりこはつづけて
「――今は、三組のお客さまがウチにご宿泊くださってるの。美桜ちゃんと芽依ちゃんが泊まることについては、ちゃんと事前に報告して許可をいただいているから、気がねせず自由に館内を動き回ってね」
「ああ、ありがとう」
二人の少女は、一般にお金を払って泊まるお客と、そうでなくのりこが個人的に招待した自分たちとでは立場がちがうから、そういう許可をとっておかないといけなかったのだろうと漠然と思ったが、もちろん、のりこが言っているのはそれだけの意味ではない。




