のりこと純真なお客16
あとで、のりこがメッヒに
「あなた、どうも最初からカリアさんのこと、あやしく思ってたよね?」
問うと、番頭はとぼけて
「そうですかね」
「なんで?ワニって、わかってたの?」
「――いえ。彼女の変身は上手でしたし、私もお客さまの本性を強いてのぞこうなどと失礼なマネはしません。
腕のうろこも見ておらず、素性についてはなにも知りませんでした。
ですから会合から帰ってきて、彼女の素性が天女と人間のハーフだと聞いても『ああ、そうか』ぐらいにしか思いませんでした。
ただ、ちょっとおかしいと感じたのは『ガンダルヴァの城』ということばを聞いたからです」
「なにそれ?もしかしてガンダルヴァって天人も、本当はいないの?」
「いえ。ガンダルヴァはいますよ。天の楽師として妙なる調べを奏でますし、アプサラーを妻とするのもほんとうです。
しかしガンダルヴァは、漢字では乾闥婆と書きますが、その城『乾闥婆城』となると、そのことばには別の意味が発生します」
「あっ……」
そばにいた呂洞賓がひたいを打つ。
「乾闥婆がその妙なる調べでつくりあげたまぼろしの城……つまり蜃気楼のように実体がないもの、ありもしないものという意味です。
そんなものの在りかをしめす地図など、初めから信用できません」
「そ~いやぁ、そんなことばもあったな。
そうか、ガンダルヴァって乾闥婆のことか?いやぁ~うっかりしてたな。
酒の飲みすぎでちょっとボケてたかな?」
自分の国のことばに気づかなかった仙人がそらとぼける。
――まったく。ちょっとこの仙人、たよりなさすぎるんじゃない?
「他は完璧でしたよ。紅玉も本物の高価なルビーでしたしね」
カリアもヴァリを信用させるために、ちゃんとしたものを用意していたらしい。
ただカリアの話を真に受けていた純情少年猿は、そんな商品の対価ぬきで娘の母親探しに手を貸す心づもりだったが。
「――でもメッヒ。あなたって、ほんとうに女性に対してでも容赦ないのね。
いくらワニだからって、殴りつけたうえしばりあげるなんて」
のりこが顔をしかめて言うと
「私は、人類が生まれるはるか以前から男女同権でしてね」
絶対なる悪を自認する悪魔番頭のことばに、少女あるじは
「こいつ、サイテー」
と、あきれるのだった。




