のりこと純真なお客15
とにかく番頭としては、そんな古代インドの戦いからの怨讐なんてどうでもよいらしい。
旅館の秩序を乱すことのみがゆるせないのだ。
とらえたワニに対して
「だれがなにをどう恨もうとご自由ですが、旅館内での不要なトラブルはご容赦ねがいたいですね。
たがいに同意したうえでの闘争や殺し合いならばともかく、片方のお客さまがもう一方のお客さまをだましさらって食べるなどは『マナー』に反します。
当旅館の品位をおとしめる行為はひかえていただかねば」
同意してるなら、殺し合ってもいいのか?
まあ、たしかに八仙たちは暴れてたけど……
アチラモノの旅館の「マナー」とやらは、ふつうの小学四年生の少女には、いまいちよくわからない。
ワニは歯ぎしりして(るんだろう、たぶん。口をしばられるてるから、よくわからないけど)
「アホザルが、ありもしないガンダルヴァの地図を手に入れるらしいと知って、わざわざそれに合わせたもっともらしい話をつくって、たらしこんでやったのに!
わきからよけいなくちばし入れをする仙人のせいで、予定が大崩れだ!
しかたないから、手早く外に連れ出して始末しようとしたら、よけいな蜘蛛がついてきやがって」
「それがしは、娘御を心配してついて行っただけでござるよ」
「それが余計だ。この低能蜘蛛め!」
「そ、そのような言いぐさはあんまりでござる……」
あわい恋心をよせていた女性からのひどいののしりに、純情な蜘蛛はすっかりハート・ブレイクだ。
はたにいる猿の古物商が、しょげているクワクの肩をたたく。
「――まあ、いいじゃねえずらか。命が助かっただけでもおたがい、めっけもんだよ。
ほんに世間ってのは危ねえもんだべ。おらはインチキの地図をつかまされたんだな。
父の言うとおり、おらみたいな若造には、まだ一人での商売は早かったのかもしんねぇ」
「わかぞう?」
なんとヴァリは、世に出たばかりの初々しい少年猿だった。
世の中の酸いも甘いも噛み分けた中年猿だと思っていたのに。
しわだらけだから、勘ちがいしちゃったよ。
「実に、女っ子は、おぞろしい」
「そうでござるなぁ」
クワクと手を取り合ってなぐさめあっていた。




