のりこと純真なお客14
番頭はうなずくと
「ええ。『ラーマーヤナ』でラーマ王子やハヌマーンに討伐された羅刹王・ラーヴァナの一族です」
「ああ。王子の奥さんをさらったっていう悪い魔王のことね」
のりこのことばに、ワニは声を荒げて
「なにがわるい魔王だ!わが一党にぬれぎぬを着せおって。この卑劣な侵略者どもめ!」
「ぬれぎぬって……その魔王がお妃をさらっちゃったんじゃないの?」
のりこの疑問に、ワニはさらに声を荒げて
「そんなもの、ラーマ王子がふっかけた因縁だ!
われらが王は、森で迷った妃を親切に保護したに過ぎない。それを口実に、無体な戦争をしかけてきおって!」
インド叙事詩のくわしい事情など、もちろん知らないのりこにはチンプンカンプンだったが、どうやら両者のあいだには一筋縄ではいかない怨讐があるらしい。
メッヒは
「まあ、およそオハナシなどというものは勝者を絶対的な正義として描きますからね。しょせん人間のオツムでは、単純化された正義と悪しか処理できません」
「そんなものかしら?」
「そうです。あなたのお国の『桃太郎』という話だって、鬼サイドから見たら、ただ宝目当てに鬼ヶ島を強襲した侵略者ですからね。
人間がふりかざす正義や悪の視点は、われわれ悪魔から見ると、かなりいいかげんです……」
そういうふうに昔話を考えたことはなかった。
さすがに番頭は「悪」については一家言あるらしい。
「われわれ悪魔が行うのは、すぐに『正義』とすり替わる人間の脆弱な『悪』とは次元の異なる純粋な『絶対悪』ですから、いっしょにしないでいただきたい……というだけです」
みょうなプライドだ。




