のりこと純真なお客12
しばらくすると、泡がぶくぶく大きくなって影が見えてきた。
頭を出したのは
「ぷはぁっ!……ふうぅ、これはあるじ。いやはやひどい目に会いましたぞ!
番頭どのが来てくださらなければ、今頃いったいどうなっていたことやら……」
クワクだ。
のりこは一安心したが
「お客さまは?」
旅館のあるじとしては、なによりも利用客の身が案じられる。
「おお、それはご安心を。今にも『食べられ』そうでしたが間一髪、間に合いましたぞ!」
そう言って、クワクが引き上げたのは……えっ?
恐怖で顔がかたまった古物商のヴァリだった!
どういうこと?じゃあ今メッヒが争ってるのは……
にわかに池面にすさまじい渦巻きが生じると、そこから竜巻のようにうねりながら空に飛び出してきたのは、番頭メッヒと、全身を「うろこ」におおわれた
巨大な鰐だった!
メッヒは大口を開けたワニの鼻先に、両こぶしを合わせてふりおろした。ダブル・アックス・ハンドルだ!
その衝撃に、巨大なワニも耐えきれなかったらしい。
ドスンと大きな音を立てて、のりこのそばに巨体を落とした。
「クワク、糸を。丈夫なのをな」
「かしこまった」
番頭はクワクの吐いた糸を縒ると、それでワニの口や手肢をしばりあげた。そして
「――はてさて。まさか、この極東の島国に来てワニ狩りをすることになるとは、私も想像していませんでしたね」
ぬれた髪をかき上げた。
「どういうこと?カリアさんはどこに?」
あるじの問いに、番頭は
「ですから、このワニがカリアの正体です。
イリエワニのようですが7メートルぐらいありますね。ギネス級の大きさです」
あの可憐な女性の正体が、このあらっぽいワニ?




