のりことあやしい旅館17
「もってきたよ!刑事さん」
まちあわせた近所の廃工場に、のりこは息せきこんで入ってきた。
その手には首尾よく金庫からもち出したあの銀色封筒がある。
「おお、マドモアゼル、よくやってくれました」
両手をひろげてむかえた伊達男は、しかし急に荒々しく、少女から封筒をひったくると中の紙をとりだして
「……おう。これだ、これ。ヤロウめ。こんな紙を回してやるから『オレたち』が動きにくいんだ」
下卑たもの言いになった。
そのにわかな変貌にのりこはすっかり面くらって
「……刑事さん?」
とまどいの声をかけると、
男はニタリとひん曲がったような笑みをうかべて
「フフフ。まったく日本って国はうるさいところデス。入国するときのチェックもきびしいですし、それを切りぬけたと思っても、すぐこんな『手配書』を回しマース。おかげでワタシたちも動き回るのが大変デス。……けれど、なかなかこの似顔絵は似ていますね。ワタシたちを男前に描いてくれています。さすがマンガの国デース」
そう言ってのりこに見せたのは七……人といってよいのだろうか、白雪姫に出てくる小人たちをものすごくガラわるく醜悪なつらがまえにしたような、おそろしげな怪物たちの絵だった。
「どういうこと?そんな、ただのでたらめなおばけのイラスト……」
さらにとまどうのりこを
伊達男はおかしげに
「そうでした。あなたはまだ、あの旅館を『ただの人間』用の宿だと思っているのでしたね、マドモアゼル。しかし、それはまちがいデス。あの旅館は『人間以外』のものが泊まるところデス。……ちょうど『ワタシたち』のようなネ!」
そう言っているあいだに……なんということだろう!
トレンチコートをぬぎすてた伊達男の顔そして体が、まるでマシュマロがとけるようにくずれ、しかも、いくつかの部分に分かれていく……その数はちょうど、七つだ!
「――ああ、やっともとのすがたにもどれた」
「――まったく、からみあってひとつの体になるのもラクじゃないぜ」
「――なに言ってやがる。おまえは右手だからいいじゃねえか。オレたちなんて足だぞ」
「――そうだ、重たくってしかたねえ」
「――そりゃ、おまえたちが手をつとめるほど器用じゃないからだ」
「――なんだと?おめえなんか左手で、出番なんかほとんどなかったじゃねえか。ぶらさがってるだけだったろうが」
「――おまえら、さわがしいな。声を出せるようになったからと言って下品な口をたたくんじゃねえ。こちらのマドモアゼルがびっくりなさってるじゃねえか」
のりこは自分の目が信じられなかった。そこにいるのは
イラストどおりの醜い、七人の小鬼だった。




