のりこと純真なお客4
「あの……部屋にこもって体調は大丈夫ですか?
よろしかったら、ラウンジでお茶をお入れしますが」
声をかける少女あるじに
「ええ、ありがとう。でもあたくし……」
つつしみぶかく辞して扉を閉めようとする女性に、おせっかいな仙人がさらに口を出す。
「おう、そうよ。この娘っ子の言うとおりでい。
せっかく異国の宿に来たってのに、部屋にじっとしてるなんざ、もったいねぇ。病気とかでもねえんだろう?」
「……ええ」
「なら、いいじゃねえか。しゃべると気も晴れるぞ……おっ?」
そう言って呂洞賓が見つめたのは、少女の手だった。
電報を受け取ったときに手にかけた布がはだけて見えた、そのかぼそく美しい手の甲には、うっすらとまるで鳥の肢のようなうろこ模様がうきあがっていた。
仙人の反応に、少女は恥ずかしげにたもとを隠したが
「おう、こりゃ失礼した――しかし、なんだい?
おめえさん、仙女のたぐいだね?」
そのことばに、少女はおどろいたように呂洞賓の顔を見つめなおす。
「……なに、おれの知り合いにそんな手をした仙女がいてな。
麻姑っていうんだが……むかし、とある男が『その鳥みたいな手で背中をかいてもらったら、さぞ気持ちよかろう』とバカなことを考えたら、麻姑のやつひどく腹を立ててな。男のことをこっぴどくぶん殴ってやがった。
まったく、気が短けぇったらありゃしねえ。ガハハハハ」
どうも、それがあの背中を掻く「マゴの手」の由来らしい。
「孫の手」だとばかり、のりこは思っていた……しかし、ちょっと失礼なことを考えただけでぶんなぐるなんて、仙人ってのは、男も女も気が荒い。
インドの少女は
「そのマコというかたのことは存じませんが……あなたさまは東方の聖仙でらっしゃいますのね?」
敬意を示して頭を下げると
「あたくしは、半分ではございますがアプサラーの血を引くものでございます」
と、こたえた。




