のりこと純真なお客3
少女のことばに「はい」と出てきたのは
南方アジアの出身だろう――ひたいにビンディ(点)をうち民族衣装のサリーに身を包んだ、うら若い女性だ。
つつしみぶかく口元を布でかくしているが、目鼻がぱっちりとした大変な美人だった。
どうも恥ずかし屋さんらしく
「――ああ、あるじさん。ありがとうございました」
紙片を受け取ると、はにかみながらそそくさと戸を閉めようとする女性に、横合いからデリカシーなく声をかけてくるのは、飲んだくれの仙人だ。
「おう、嬢ちゃん。そんな部屋にひとりで泊まってるのかい?退屈だろう?」
赤い顔してズカズカと、ほかのお客さまのプライバシーに口をはさまないでほしい。のりこが注意すると
「まあ、そうかたいこと言うなって。こんな異界モノ相手の宿で、そんな無粋は言いっこなしさね。
――そもそも、こんなオツな女の子が辛気くさくも部屋に閉じこもってるなんざぁ、世界にとっての一大損害だと、おらぁ思うぜ」
……なんで、こんな一昔前の江戸っ子遊び人みたいなもの言いなんだろう?
ほんとうは中国語をしゃべってるはずなのに、この旅館の力による言語変換にはどうもクセがあると、前からのりこは思っている。
ただ、たしかにこの女性客……まだ二〇才にもなっていないぐらいに見える……がチェック・インして以来、ほとんど外にも出歩かず一週間以上ひとりで部屋にこもっていることについては、のりこも気になっていた。
まさかこの愛らしい女性が宿泊ドロボウだとはのりこも思っていないが、さすがに部屋に閉じこもりっぱなしというのは、体によくないのではないかと思っていたのだ。
メッヒに言ったら
「そんなもの、お客さまのかってです」
と、まるで気にしてなかったが。
(あいつには細かい心配り……人情がないんだよ。悪魔だから)




