のりこと無量の部屋14
それを見ながら酒を飲む呂洞賓道人は、赤い顔をなんだかむずむずさせて
「やあ~、しかし。どうも膠着状態だな。
いかにこの部屋の広さが無量とはいえ、あれだけの仙気を放出しては他の部屋に迷惑がかかるともしれん」
それを受けて番頭が
「……それは、われわれ従業員にお二方のあいだに入って止めろ、ということでございましょうか?」
言うと、八仙のリーダーはしかつめらしく
「いやいや。あんたたちにそこまでさせては申し訳ない。……ここはやむをえん。ひとつ、おれがあいだに入って止めて来よう」
「はあ。それではあなたさまにおまかせすると……そういうことでよろしいですか?」
「うむ。いやはや、こんな荒っぽいことに、おれは本来参加したくないんだがなぁ」
そんなふうに口ではいやそうに言いながら、呂洞賓はいかにも心しょぎしょぎ、うれしそうに持ち物のするどい剣を抜いた。
そして
「やいやい!てめえら、いいかげんにしねえか!!
ガキじゃあるめぇし、いつまでもそんなチマチマした乳繰り合いしてやがっと、このおれさまがその素っ首をズタズタに切り裂いてやるぞ!!」
内頸にあふれた大音声で一喝すると、ロケット噴射で宙高くにある二人の仙人に飛びかかる。
「あっ、なんでぃ兄貴!?男と男の立て引きに、くちばし出さねぇでおくんなせぇ!」
「そうだよ、ロイ!」
「うるせぇ!おめぇらがいつまでもチンケな争い見せてやがるから、ご見物さまが退屈なさってるじゃねえか!
ああ、大陸の仙人と言ったところでこの程度か、たいしたもんじゃねえと辺土の者に思われちゃあシャクだから、じゃあおれがケンカの見本を見せてやろうと、出っぱってきただけよ!!
だまって二人とも、おれの剣の露と消えやがれ!!!」
「「そんな兄貴、むちゃくちゃな!!」」
「……なに?あのおじさん。ケンカを止めに入るっていうより、もっとひどくなるように飛びこんだみたい」
のりこがお菓子を食べながらあきれ顔で言うと、
メッヒは
「まあ、ほんとうはあの方が一番暴れたくてうずうずしていたんでしょう。
なにせ立場上、仙人がこんなふうに思いきって暴れることのできる機会はあまりないですから。
道を極めた仙人たちが最後までぬぐい捨て去ることができないとされているのは、その極めた術を見せびらかしての大暴れ……自己顕示欲と暴力衝動ですからね。
仙人と言ったところで、しょせん人間上がり。暇を持て余したものたちのくだらないたわむれですよ。クフフフフフ」
悪魔らしい冷笑だ。
「ちゃんと終わるかな?」
「どうしても終わらなければ、私があいだに入っておさめますよ」
いま三人の仙人たちは、それぞれ思い立った怪獣やロボットに転じて闘争に興じている。
そのすがたは、休み時間にプロレスごっこをしている中学生男子のようだった。
「……男の子って、バカだよね」
少女あるじはつぶやいて、お茶をすすった。




