のりことあやしい旅館16
なさけなげに言うおばが、なんだかとてもかわいそうなものに見えた。
こんな体のわるそうな女性に仕事をしろというメッヒは
(あんまりだ、犯罪者のくせに)
のりこは、いっそのこと宿のあるじである春代にメッヒたちの悪事を洗いざらい言って協力をあおげばいいのではないかと思った。
しかし刑事に、この件はだれにも言うなと注意されている。
おばから情報がもれてもこまるということだった。
そんな、言うに言えないもどかしさに少女がやきもきしているのを知ってか知らずか、おばはのりこを見つめると
「――そうだ。じゃあ、のりこちゃんにこの仕事まかせちゃおうかしら?」
「あたしが?」
「ええ。今のりこちゃん帳場をのぞいてたでしょう?あの部屋……そしてあの金庫の中をのぞいてみたいんじゃないの?」
「いや、あの……」
「いいのよ、かくさなくとも。でも、あの金庫を開けることができるのは番頭か、この鍵を持つあたしだけよ。なにせこの鍵は、この旅館にあるすべてのとびらのマスター・キーだからね」
「へえ……」
置時計のぜんまい回しがそんな大事な役目を持っているだなんて、意外だ。
「この鍵は、いわばこの綾石旅館の主人であることの『あかし』なの。……それをあなたに貸してあげる」
「えっ?」
「そうしたら、のりこちゃんがどこに入ってなにを持ち出そうと、だれも……そう、メッヒも文句を言わないわよ」
そんなつごうのいい話があるんだろうか?鍵を持つだけで、大人がこどもの言うことを聞くだなんて……いぶかしんだのりこだったが、やわやわとやさしく語りかけてくるおばの目を見ているうち、そんなこともあるのかしらん、と思えてきた。
(そうだ……このひとがあたしにウソを言う必要なんて何もないんだから……言うとおりにすれば刑事さんに言われたこともできる……)
「貸すといっても、ちょっとのあいだよ」
とろけるような口調でささやかれ
(そうだ……ほんのちょっとのあいだだけ……)
「……じゃあ、ちょっとだけやってみます」
のりこがとろりんと返事をすると
「あら!よかったわ、ほんとうに。なんでも言ってみるものね。あたしうれしいわ!」
鍵を手わたしたおばの笑顔は、姪に会って以来、最上のものだった。




