のりこと黄金の小箱32
「あっ!これ『木成り族』の眼の玉!――どうして?いまこれはグライアイがはめてるはず……?」
と、見上げた悪魔の顔が一瞬、まるで目も口もない闇のように見えた。
「……あっ!あなたもしかして、あのグライアに化けてたのね?」
番頭はシラッと、
「ヘクセがすなおに黄金の鍵をあなたにゆずるとは思えませんでしたからね……。
こっそり手助けしてほしいとアナンシに言われていましたから、私も策略をめぐらしたわけです。
グライアイが義眼をヘクセから手に入れたというのは聞いていましたし、私はかつてグライアに化けて、とあるギリシア女を顧客のもとに誘いだしたことがあります。そのときの経験が生きました。
本物のグライアイは、いまでもグリフォンの目を義眼として使っていますから問題ありません」
「問題ないって……それって、ヘクセが鍵をだまし取られたってことじゃない?」
「そうなりますね」
ぬけぬけと語る悪魔を、少女はあきれて見た。前回に続けて、さすがにこれではあの魔女がかわいそうになってくる。
「あんまりひどいことしてると、いつか仕返しされるよ」
「あんな、いやしい魔女にこの私が?ふんっ、バカにしないでください」
鼻でせせらわらう番頭に、少女は
(なぜだろう?たすけてもらったはずなのに、ぜんぜん感謝する気がおきない。この女の敵にバチが当たればいいのに!……と思っちゃう)
そんなあるじの心証を害したことなど、どこ吹く風の番頭は
「クワク!玄関前のそうじをしておけといっただろう!」
さけんでいる。
「あいや!番頭どの……これにはよんどころない事情がございまして……」
(――まぁ、いいか)
従業員がふたたびそろって旅館の明かりが前のようにもどったことが、少女あるじにはなによりもうれしかった。
今日の更新分で「あやしの旅館へようこそ!」第二期分は終了です。
明日からは別作品「消えたツノジカ」の更新をはじめます。「旅館」や「診療所」とおなじ街が舞台の、おとぼけファンタジーです。どうぞ続けてごらんください。
そのあとまた「診療所」や「旅館」の続きを更新します。よろしくお願いします。




