のりこと黄金の小箱30
「ただ、現実問題として『ソロモンの鍵』をお持ちのかぎり、あなたはこの旅館のあるじです。それからのがれることはできません。その上で今後あなたがどうしていくのか、それはあなたが決めていくしかないでしょう」
「あたしが決める……って言われてもなあ」
むずかしい問題にあたまを痛めるこどもあるじに、お美和は
「まあまあ。そないにむつかしいこと、いま考えてもしょうがおまへんで、あるじ。後々(あとあと)で決めたら、ええことでしょ」
明るく言った。
そして、そのうしろから
「そうでござるよ、番頭どの。いまだ幼け(いたいけ)なあるじどのに、そのような無理難題をおしつけるものではありませぬ」
したり顔で言うのは、アナンシの王位継承者にして綾石旅館の男衆に復帰したクモ少年・クワクだった。
番頭は、その顔をじっと見ると
「……クワク。その口もとについている砂糖はなんですか?」
と、指摘した。
クワクはあわてて口をかくすと
「あいや、番頭どの。これはその……賞味期限が来たものを処分せよ、とのお美和どのの言いつけで……」
「ウチは、そないなこと言うてませんで。置いといた『月の雫』をぬすみ食いしたんですわ」
料理人はすばやく否定する。
クモ少年はさらにあわてて
「お美和どの、そうもあっさりそれがしをお見捨てくださるな。……い、いや。これは、それがしがおらぬ間に見知らぬ菓子がきたようですので、後学のために賞味しておかねばと思いまして……」
七本となった手肢をじたばたさせて、なんとかこの場をのがれようとする。
ためいきをついた番頭は
「まあよい……そんなことより、おまえがお世話にあたっている二階のお客さまのごきげんはいかがですか?」
と、たずねた。
「はっ!二匹とも丹前すがたで、きげんよくしております。牙もはさみもだいぶんに引っついたようですぞ!」




