のりこと黄金の小箱25
あるじは
「メッヒ、あなた最初からナンシーおばさんがアナンシだって知っていたの?」
「ええ、もちろん。アチラ世界では有名なことですからね。ただアナンシに口止めされていたので、あなたには言いませんでした」
ナンシーおばさん、実は蜘蛛の王アナンシは豪快にわらって
「ハハッ!なんでもはじめからわかっていたらつまらないだろう、おじょうさん!
女房のアソが、クワクが旅館をやめたのを心配するから、オレがいっぺん日本に見に来たのさ。
でも、クワクもンディクマもこの街にいることは、においですぐにわかったぜ!
ンディクマがクワクと体をいれかえて逃げ出したところもバッチシ見てたさ!」
「じゃあ観光っていうのも……」
「『今日』はしていません。われわれは朝からずっとあなたがたを見張っていたのですよ」
「そうさ!おれの視線のレーザー・ビームはずっと、かわいいあなたにロック・オン!」
どこまでも陽気な蜘蛛の王に対して、番頭は
「そのうえ、こんなお芝居に私をつき合わさせるとは悪ふざけがすぎますよ、ナンシー……いや、キング・アナンシ」
「ハッハ!せっかく箱があるってのに、その話に参加しないでどうするよ!
だいたい、いやだいやだって言うわりに番頭、おまえだって自分の役割を楽しんでいたのではないかね?」
「ごじょうだんを」
豪快にわらう王さまと苦虫をつぶした表情の番頭のやりとりを、蜘蛛の息子とのりこたちはあきれて見ていたが、しぼり出すように声を上げたのはンディクマだった。
「……なぜです、父上。機知があり、かって気ままにふるまうのがあなた・アナンシでしょう?」
父親はそれに対して
「おまえはアナンシの『語り=騙り(かたり)』にひっかかったのだ、せがれよ。
王をつとめるものが、本当にだらしない嘘つきでよいはずがないではないか?そんなことでは民がこまる。王は正直で勤勉でなければならんのだ。
ただ、それでははなしがつまらないからな。アナンシには気ままでいたずらものであってほしいという民の期待をうらぎらないように、わしはふだんふるまっておるのさ。
アナンシがもとは正直ものであったなどとは、けっして民に知られてはいけない。それゆえこのはなしは、箱の中にかくしておかねばならんのだ」
「そんな……」
「おまえはわしと故郷にもどるのだ、ンディクマ。王にはなれなくとも、おまえにはおまえにしかできない役割がある」
その口調は、うってかわって王としての威厳にあふれていた。




