のりこと黄金の小箱20
むかしむかしのおはなしです。
そのころには、まだこの世界で人間は火というものをつかっていませんでした。
どんな食べ物も生のままで食べていたのです。焼くことも煮ることもありません。あかりがないから夜は早く寝るしかありませんでしたし、どんなに寒くても毛布や毛皮にくるまって我慢するしかない時代でした。
とはいえ、人間が火というものを知らないわけではありませんでした。とおい東の山の中腹には小さなさけめがあって、その底には熱いマグマがあったのです。ただそのさけめはとてもせまく深かったので、だれも取りに行くことはできませんでした。
人間たちは、遠い山のさけめから熱気と煙が上がるのを見ては
「ああ!あそこに燃えさかる火があるのになあ!どうにかして取ってくることができないだろうか!」
と、なげきました。
そんな人間のようすを見ていた天の神さま・ニヤメは、地上の動物たちにおふれを出しました。
「あの山の裂け目から火を取ってきたものを王としよう。そのものの名のもとに、すべての話は語られる」
そのおふれがひろまると、多くの動物たちが火を手にいれようと東の山に向かいました。
ゾウやカバ、ライオンといった大きな動物たちから小さなシカやリス、ネズミたち、そして空飛ぶタカやワシといった鳥たちです。
しかし、彼らにはどうしても火を取ってくることができませんでした。からだが大きい動物はさけめに入ることができませんでしたし、さけめに入ることができた小さな動物たちも、熱気が強く、とちゅうの足場もほとんどないさけめの底までには、とても達することができなかったからです。
しばらくすると、どのいきものたちも火をとることをあきらめました。




