のりこと黄金の小箱19
「やっちゃ!牙とはちゃみを取りかえちだぞ!」
自分たちの体の一部を取りかえしてよろこぶ豹男と大蟹にのりこたちが気を取られていると、(ンディクマの体にいる)クワクがさけんだ。
「あるじ、いけませぬ!兄が箱を手に!」
いつのまにか、弟の体にひそむンディクマは鍵の開いた小箱を持っていた。
「……とんだ邪魔が入ったな。まあ、おまえらのきたない牙やはさみなんてどうでもいい。オレが必要としているのは、この箱だけだ」
「どういうこと?そんな空箱のなにが大事なの?」
少女の問いに、狡猾な蜘蛛はニタリとわらうと
「ふふっ。この黄金の小箱に入っているのは、目に見えるものじゃない。
ある『おはなし』さ」
(おはなし?なにそれ?)
「――おれたちの父親・アナンシはむかしから悪ふざけや人を困らせるのが大好きな、いたずら好きの蜘蛛だ。
そして、人間たちはそんな『蜘蛛のアナンシ』が登場するいろいろないたずらばなしやうかればなし、成功談や失敗談を聞くことによって知恵と楽しみを得てきた。だから今でも人間は、それらを『アナンシばなし』として語りついでいる。
気前のいい親父はすべての『アナンシばなし』を人間にあたえたが、ただ一つだけ、だれにも聞かせず、この黄金の小箱の中にかくしおいた秘密のはなしがある。
それが『アナンシが、いかにして王になったか』というはなしだ。
そして、このはなしをうまく語ったものだけがアナンシのあとつぎになることができる。
この小箱は、王位継承のあかしなんだよ」
おはなし語りで次の王さまが決まるだなんて、初めて聞いた。
「なにせ親父のアナンシは実力主義だからな。長男だからといってオレが次の王になれる保証はなにもない。特にクワクはやっかいだ。親父の力を一番色濃く継いでやがる。クワクが成長する前に、オレはどんな手を使ってでもこの箱の中のはなしを語らないといけなかったんだ」
「ああ、兄上、そんなことなさらずとも……」
「うるさい!おまえなんかにおれの気持ちがわかるか!オレは王になるぜ、クワク!」
そう言ってクモ男は箱を開けると、おはなしをはじめた。




