のりこと黄金の小箱17
「ば~か。蜘蛛に人の道を説いてどうするんだ、おろかな『おとうと』よ。
そんなだからひっかかるんだ」
「なんたること!」
二匹の蜘蛛のやりとりに、アンジェリカはとまどって
「……あれ、あるじ。いったいどういうことですの?あたくし、まるで事態がわかりませんわ」
そんなこと、少女にだってわかるはずもない。
ただ、自分たちがすっかりだまされてしまったのはまちがいなさそうだ。
「どういうきょとだ?おでたちが捕まえたのはンディキュマじゃないのきゃ?」
豹や蟹もとまどっている。彼らも、自分たちがつかまえたのがンディクマだと思っていたようだ。
クワクのすがたをしたものは、さもおかしそうに
「おまえたちがつかまえたのはンディクマであってンディクマでない。さて、いったいどういうことだろうねぇ?」
からかうように言うと
「……そうさ!このクワクの体にいるおれこそが『ンディクマ』だ。クワクと体をいれかえたのさ!」
弟の体をつかって、胸をはった。
そして
「……まったく、コールタール人形に引っかかちまったときはあせったぜ。つい、なつかしいフフのにおいにつられちまってな。タイミングよくクワクがかけつけてくれなかったら、たいへんなことになってたところだ。なにせ、おれはクワクや親父のアナンシとちがって、化けたり戦ったりする能力はあまり高くないからな。
ただそのかわり、おれにはとっておきの能力として、いざというときにたましいのいれかえ、つまり変わり身をすることができる」
へらへらわらうと、つづけて
「豹たちがかけつけるまえにネバネバからのがれることはむずかしい、と知ったオレはクワクとたましいをいれかえて逃げたんだ。そのあと追いたてられて、ふらふらになっちまったがな」
「そんな!たすけに来てくれた弟に、なんてひどいことを!」
いきどおるのりこに対して、しかし(クワクの体の中にいる)ンディクマは
「おっと。なにもオレだって許可を取らずに体をいれかえたわけじゃねえぜ。
クワクが『それでいい』って言うから、入れかわったんだ」
「えっ!なんでそんなこと?」
あるじの問いに(ンディクマの体の中にいる)クワクは
「……あるじどのをうらぎった蜘蛛でなしのそれがしには、もはや生きる価値がないと思っておりました。兄が助かるのなら、それでよいのではないかと思ったのです」
おもてをそらして弱々しいことばを吐く蜘蛛に、かつての明るさは少しもない。
まるで生きる希望を失ってしまっているようだ。
(そこまで思いつめていたなんて知らなかった。あたしはぜんぜん気にしてないのに)




