のりこと黄金の小箱16
「なんで、わざわざ『おれ』がこんな無人の駐車場を待合場所に指定したと思う?
そりゃ、ここにこれをかくしおいていたからさ」
そう言って袋から取り出したのは
「あっ!おでの牙!」
「あたしのはさみ!」
たしかに、クワクが手にしているのは肉食獣の立派な牙と、身がつまっておいしそうな蟹のはさみだ。
(――それより、いったいどういうこと!?)
これでは、クワクは初めから盗人たちが求めるものをおさえたうえで、からっぽの箱を開ける鍵をさがしていたということになる。
豹男と大蟹は、自分たちの体の一部を見ると、気もくるわんばかりになって
「ちぇめぇ、ごの野郎、返ちやぎゃれ!」
「そうよ、返せ!」
とびかかろうとする二匹に対して、しかしクワクは冷たい笑みをうかべると
「そんな大きなことを言っていていいのかな?
なんで親父がおまえたちからこれをとりあげたか、わかっているんだぜ。この部位におまえたちの霊力がつまっているからだ。それを、こんなふうにしたらどうなるかな?」
そう言って、ひしゃげるように牙とはさみに力をくわえる。
「うげっ!」
「いたい、やめて!それをこわされでもしたらあたしたちは死んでしまう!」
二匹のケモノのなげきに、しかし少年蜘蛛はさも楽しそうに
「ほんとかなぁ?ためしてみないとわからないだろ?」
「うげげげげげ」
「いたたたたた」
そのあまりのしわざを見るにたえず
「やめて、クワク!そんなひどいことしな……って?」
さけんでいるとちゅうで、のりこはハッとした。
「あなた!クワク『じゃない』のね!?外見はホンモノだけど、中身がちがう!」
少女のことばに
「――へえ、なんでそう思う?」
にやついた少年蜘蛛に、あるじははっきり言った。
「そりゃ、クワクはサムライだもの!そんな卑劣なまねをするわけないでしょう!」
のりこのことばに、クワク(の体にいるもの)は、ククククク……といやな笑い声を上げた。
「やっと気づいたね、おじょうさん。クワクから『ぬけてる』こどもだと聞いていたとは言え、内心いつオレのモノマネがバレるかと冷や冷やしてたんだぜ……なにせクワクの日本語ときたら、みょうちくりんだからねえ」
そのとき、さるぐつわをなんとかずらしてクワクの兄・ンディクマであるはずの青年蜘蛛が、さけんだ。
「なんということをなさるのです『兄上』!
それがしのみならず、無関係の『あるじどの』まで謀りまきこむとは!
どこまで人倫の道にもとるおつもりですか!?」
その古くさい言いぐさは、まぎれもない旅館の男衆蜘蛛のものだった。




