のりこと黄金の小箱14
豹人間と大きな蟹――だった。
のりこはもうすっかり慣れっこになっているのでいちいち驚いたりはしないが、ふつうの人間は、二本足で立つ豹や、おとなの人間よりも大きな蟹が地下駐車場に立っていたらびっくりするだろう。
そして、そんな二匹のあいだに立っているのは、のりこほどの背たけがある黒いこけし状の人形で、そこにぐるぐるまきになった蜘蛛人間がしばりつけられていた。
クワクによく似た、しかし一回り大きい彼こそクワクの兄・ンディクマにちがいない。
さるぐつわをかませられた彼は、なぜだろう?
特にのりこのすがたをみとめると、あわてたように口をフゴフゴさせた。
(はじめて会うのになんでだろう?クワクから、あたしのことを聞いていたのかな?)
いぶかしむのりこに、ふりかえったクワクが
「……あれがわが兄・ンディクマです。どうです?なかなか良い男ぶりでござろう?」
と、おどけた風に言った。
しばられたお兄さんを目の前にちょっと不謹慎だ。
クワクはふだんはふざけているけど、こんなときにそんな悪ふざけは言わない子だったのに。
のりこは蜘蛛少年の「らしくない」態度にイラッとしながらも、たずねた。
「なに?あのネバネバした黒い人形は?なんだかあまいにおいもするよ」
クワクは
「あのにおいはわれらがふるさとの味、ヤム芋をついてつくった粥……フフのものです。あのなつかしいにおいにひきつけられて、兄はあのコールタール人形にはりついてしまったのです」
「えっ?ニオイにひきつけられてネバネバにつかまるだなんて……」
(それって、まるっきりあのよく台所に置いてある……)
のりこは思わず失礼な連想をしたが、もちろん口には出さない。
ほこり高い蜘蛛は、ただでさえ虫といっしょにされるのをいやがるのだから。
「あなたのお兄さんったら、なんて意地きた……いや、うっかりさんなの?」
「……いやぁ、もうしわけない」
少女の指摘に、クワクはまるで自分のことのようにバツがわるそうだ。
そんな訪問者たちに対して
「なにをごしゃごしゃ、ちゃべっている!?しゃんと、鍵を持ってきしゃんじゃろうな!?」
豹男が、聞き取りにくいことばで怒鳴った。




