のりことあやしい旅館13
次の日の朝、のりこはトーストとヨーグルトのかんたんな朝ごはんを食べると、近所の公園にひとり、にげだすように出かけた。
とにかく旅館からはなれて、ものを考えたかったのだ。朝ごはんの席でもおそろしくて、給仕するメッヒとまともに目を合わせることができなかった。
(――どうしよう?やっぱり、きのう見聞きしたことを春代おばさんに言ったほうがいいのかな?……でも、もしあのひとも知った上でのことだとしたら?それこそあたしの方がひどい目に会うかも……かといって、ほかにあたしが知っている大人といえばカズヨさんぐらいで、こんなことを言っても迷惑が……。
もおっ!やってきたばっかりの家が、わるいことしてるだなんて最悪だよ……)
ブランコにゆられながらうなだれていると
「――どうしました?マドモアゼル?」
にわかに明るい声をかけてきたのは、昨夜むかえた伊達男客だ。
コートの襟を立て、手にはコンビニで買ったらしいソフト・フランスがある。
「ニッポンのバゲットは歯ごたえがなくて、あますぎデス。こんなもので満足できるとは信じられマセン」
そう言いながらかじっていた。その明るさにつられて
のりこが
「――あなたは、なにをしに日本に来たんですか?観光?」
と、問うと
「ア――ッ……調査です。とても、とても大事なことですから、くわしいことは言えまセンが」
ニコニコしながらはぐらかす伊達男に、
のりこは、ふと思い出したずねた。
「……きのう、あなたはあの旅館が『危険』だって言ってましたよね。なんでですか?」
「ア――ッ、ワタシそんなこと言いましたか?なにか勘ちがいしたんでしょう、スイマセン」
そうわらってごまかそうとしたが、真剣なのりこの表情を見ると肩をすくめて
「しかたありませんね――それは、言いにくいですが、あの旅館はけっして、あなたのようなかわいいマドモアゼルがいるのにふさわしい場所ではないからデス」
「なんで!?なんでそんなふうに思うんですか?」
「それは、職務上言うことができまセンが……もしかして、なにかあったのデスカ?」
のりこの強い言い方に感じるところがあったらしい、伊達男は急にそれまでの不自然までの陽気さをすてて、真剣みを帯びた表情でのりこに問いかけた。
「あっ、いやその……」
こんなことを見ず知らずの人に言うべきかどうか、まよっているのりこに対して
「なるほど、言いにくいことなのデスネ。ただ、ワタシのことは信用してだいじょーぶデスヨ。……実は、ワタシは警察官なのですよ」
「えっ!?警察?ほんとうに?」




