のりこと黄金の小箱12
のりこはヘクセとのあいだで、月人の眼球と黄金の小鍵を交換した。
さらにその眼球は、グライアの手にわたった。
彼女は、さっそくそれを顔にはめると
「おうおう。こりゃなかなかいい具合じゃないか。よく見える。前の眼球よりよっぽどいいよ。遠近両用にちゃんと対応して、いい感じだ。……ふんふん、ほう。おまえの下品な鼻のいぼもよく見える。これなら妹たちも満足するだろう。
うん……?なんだい、この目玉を持ってたのはあんたみたいなちっぽけなこどもかい?なんだか、たいしてかしこそうには見えない娘だね」
一つの目玉でまじまじとのりこを見た古代ギリシア神話の偉大な魔女は、皮肉げに言った。
(失礼しちゃう!初対面なのにさ!メッヒみたいな言いぐさして!)
少女はきげんをそこねるが、ヘクセはまったく気にせず
「お気に召したようでよろしゅうございましたわ」
と、ひたすら低姿勢にもみ手をする。
満足したらしいグライアは
「じゃあ、あたしはこれで帰るよ。早く帰らないと妹たちは、目も歯も無しで待ってるからね。
……ああ、それと、これはひとつあたしからの忠告だ。
『あんた』はもうちょっとホンモノとニセモノの見きわめができるようにならないといけないよ」
「はっ、はい!今後は満足いただける商品をちゃんと選びます!」
そんな平身低頭のヘクセを見やるでもなく、老婆はよたよたと杖をつきながら雑貨店を去っていった。
その後すがたを見送りながら、のりこはとまどっていた。
頭を下げっぱなしのヘクセは気づいていなかったが、グライアが「あんた」と言ったとき、まちがいなく彼女はヘクセではなく自分のほうをぎょろりと見たからだ。
(あたしが?どういう意味?)
けっきょく古代の魔女の言いたいことがわからないまま、のりこたちもヘクセンキュッヒを去った。




