のりこと黄金の小箱11
老婆のことばに、ヘクセは手を合わせてプルプルふるえ
「あ、ひゃっ、お、ねぇさま。これはとても貴重なグリフォンの眼球で、おねえさまがたにも問題なく使っていただけると思っていたのですけど……」
「おまえ、まさかあたしたちグライアイが一つの目玉を三人で共用しているからといってバカにして、いいかげんな品をつかませたんじゃないだろうね!?」
「そ、そんな、めっそうもない!あのゴルゴンの見張り役をつとめた偉大な三姉妹にそのような失礼なまねは!」
脂汗をたらたら流し、平身低頭へりくだる。
「ふん。むかしあの憎らしいペルセウスのこぞうに目玉をうばわれさえしなければ、なにもこんな義眼にたよる必要はなかったんだけどね!
とにかくこんな不良品、どうにかおし!
なにせ今回、あたしはこのにごった目で西の果てからやってきたんだよ!手ぶらで帰ったら、待っている妹たちにあわす顔がないじゃないか!とっとと代わりの目をおよこし!」
「そ、そんなことを急に言われましても、おねえさまがたの虚無のお顔にたえる眼球など早々見つかるものでは……」
「なんだと!?おまえ、三下の魔女のくせして女神といってよいあたしたち姉妹をだましたうえ、待たす気かい?
それなら、こっちにも考えがあるよ。どうせ一週間も保たないだろうが、ソフト・コンタクトがわりにおまえの両目をくりぬいてやろうか!」
「ひぃえぇえぇぇえぇっぇえ!それはどうぞおゆるしを、尊いおねえさま!どうぞ、この店に置いてあるどんな品も持っていいていただいてよいですから、ごかんべんを!」
「ふん!そんなものなんの役にたつ!目がなくとも歯は一本まだあるんだ!かじりついてそのきたない顔の肉をそいでやろうか!」
「ひょえぇぇぇぇぇぇぇっ!」
ぷるぷるぷるぷるお肉をゆらしながら。ヘクセはそれこそガマガエルのように老婆の前にはいつくばって頭を下げる。
そんな、急に始まったふたりの魔女のやりとりをあきれて見ていたのりこが、声をかけた。
「……ねえ、目の玉があればいいの?」
少女の口出しにヘクセはあわてて
「だまっといで、小娘が!目の玉ならなんでもいいってもんじゃないんだよ!
こちらのおねえさま方のお顔には、それこそ火事にたえるぐらいじょうぶなものじゃなきゃいけないんだ!」
そんなののしりにたじろぐことなく旅館のあるじは
「……でもあたし、良いの持ってると思うんだけどなぁ。だって宇宙に飛び出してもなんともないらしいんだよ、これ」
そう言って取り出したのは、このあいだ月の木成り族からもらった目玉だった。
なにせ、この眼球は宇宙から大気圏に入るときの超高温にもむき出しで耐える、NASAやJAXAもびっくりの高性能なのだ。




