のりこと黄金の小箱10
「なんだね?いま立てこんで……あらっ!これはグライアのおねえさま!」
あの傲岸不遜なヘクセが、絵にかいたようにコロッと態度を変えてへりくだってむかえ入れたのは、頭から足元までを黒いボロボロの布地ですっぽりとおおいかくした異形のものだった。
枝のように細いその体つきや大きく曲がった背中から見て、おそらく老婆とおぼしきその顔は、黒いベールの奥にかくれてまるでうかがうことができない。
「おめずらしいお出ででございますこと!それもおひとりとは!
あとのおふたりはいかがなされましたか?」
ヘクセはそのガマガエル状のでっぷりとした体を最大限に折り曲げて、腰低く対応している。緊張で脂汗も出ているようだ。
もしかして、老婆は目がよく見えていないのだろうか?手に持つ杖を何度もつくと、一本だけ見えるまっ黄色のきたならしい歯をフゴフゴさせ
「――ヘクセかい?ふう、やっと着いたよ。なにせ、あたしたちの家からここまではだいぶん遠い」
枯草がすれあうようなカラカラ声を上げた。
「え、ええ。まさかわざわざ『西のはての国』からおねえさまみずからお出ましとは……」
あわてふためき返事するヘクセを無視して、老婆はことばをつづけた。
「――あたしたちグライアイ三姉妹は、かつておまえから商品を買った。そうだね?」
「はいっ!たしかにお買い求めいただきました。まちがいのない高品質のものを届けようと、最大限努力して……」
もみ手をするヘクセに老婆が
「……じゃあ、これはなんだい?」
そう言って、テーブルにほうりなげたのは
「きゃっ!……って、なにそれ?……目玉?」
それは、たしかになにかの生きものの眼球だった。
もとはとてもきれいなものだったと思うが、いまはひとみの部分が白くにごっている。
「……あんたは、あたしたち姉妹にこれを売ったとき言ったはずだったね?
この眼球は一〇〇〇年は品質が変わらず視界は良好だと……
それがどうだい?購入してたった五〇年ばかしでこのニゴリようだ。どうなっている?」




